ラウンド1、ファイッ!
グーテンターク! わたし異世界送り担当女神のイセカ! フルネームは訊くな!
そんなわたしだけれど、ついさっきプロローグで候補者ガチャの天井を回したのに、まさかの期待外れキャラ、もとい候補者が出て絶賛傷心中!
こういう時って、最近の若い子達はぴえんて言うんだったかしら? ごめんね、主神がオッサンだから娘のわたしもその影響で新しい言葉には詳しくないの。
さてさて、そんなわけで早速候補者のお宅までやってきたわけですが〜、あ〜っとこれはいたって普通。やっぱり普通。なんの捻りもない一般家庭のおうちだわ。
まあ、そこは別に問題無いか。だってほら、転生・転移物って大抵いじめられっ子かブラック企業の社員が主役じゃない? そういうのを参考にしてるから、あのガチャでも陽キャだの人生満喫してるセレブだのが候補者になることは少ないのよね。たま~にならあるんだけど。
で、肝心の候補者は……二階に気配を感じる。子供部屋かな? わたしって普通の人間には姿が見えないけど、候補者には見えちゃうのよね。どうしようラ〇やんみたいな展開になったら。押し入れで暮らすのはちょっと憧れるけど、エッチな展開はお断りだから先にドローンで偵察しましょ。あ、神様以外は市街地で勝手にドローン飛ばしちゃ駄目よ? 色々うるさいんだからね。
ほら行け天使! 別名神様専用ドローン!
天使の見たものはアプリを使ってWi−Fi経由でスマホに映せるの。操作もスマホ一つでできちゃうし、技術の進歩万歳!
あ、いたいた、候補者のやつ寝てるわ。いくら日曜の昼だからって高校生の男子が
うーん、顔はやっぱりわりかし美形。それ以外には特徴無し。
あれかしら?
でも、その理屈で行くとこいつドスケベでドクズなんじゃない? 候補者ステータス表にも性格までは書かれてないからなあ。そんなやつだったらやだなあ。
もう今のうちに転移させちゃおうかしら? 寝てる間に夢の中に女神が現れて異世界へってのも、けっこうありがちな展開よね? よし決めた、早速こいつの頭をこじ開けて──
「……」
あれ? 今から侵入しようと思ったところだったのに起きちゃった。しかも着替え始めたわ。どこかに出かけるつもり?
オッケー、それならそれでグッドよ。異世界転生定番のアレを使えるもの。さあ、さっさとキルゾーンまでやって来なさい。グッバイ地球! レッツゴー異世界よ!
……なんかおかしいわね? こいつ、街中まで出てきたのに、ただただ歩き続けるだけで何もしないわ。ただの散歩?
コンビニをスルー。
本屋をスルー。
ゲ〇もツ〇ヤもスルー。
ゲーセンもスルー。
服もカラオケも何もかもスルー。
待って、この子いったい何になら興味を示すの? まるでこの世の全てに関心が無いみたいに無表情で歩き続けてるんだけど? 怖い。備考欄の「スルー力が高すぎる」って、こういう意味?
えーと、でもあれよね、この世界に退屈してるんだとしたら、きっと喜んでくれるわ。異世界だもの。ワクワクする冒険の日々。ゴミスキルに思いもつかない活用法を見出してからのチート無双。中高生の大半はそういう展開に憧れているはず。でなきゃ世の中こんなに異世界チートスキル無双だらけになってないわ。ひょっとしたらチョロインだらけの世界に転生してモテモテになれるかもしれないし、これは彼にとってもメリットの大きい話なのよ。
というわけで、ちょうど他の通行人がいない交差点に来ました! 殺るなら今よ! 行け、異世界転生トラック!
──説明しよう! 異世界転生トラックとは轢かれると何故か異世界転生してしまうトラック! 事故を起こしたドライバーのその後を思うと悲しくなるから、当社では自動運転車を導入! 天界製で衝突後は勝手に消滅するため人間界のメーカーが訴えられる心配も無し! ただ、最近では「人を轢き殺して消える妖怪トラック」なんて呼ばれて都市伝説化してるみたい。うちの姉さんはこれが大好き!
ともあれ、この必殺のタイミングなら躱せまい! 死ねぇええええええ!!
「帰ろう」
クルッ
あれえ!? 絶妙のタイミングだと思ったのに、直前でいきなりUターンした!?
ああっ、転生トラックが電柱に!? 大変、事故よ! こっち見て!!
「……無人か」
スルー!? 目の前で起きた交通事故をスルーして帰った!? てか、人が乗ってないのを確認したならもうちょっと驚きなさいよ! 眉一つ動かさないとか、ゴル〇だってあんたより人間らしい反応するわよ!
な、なるほどね、なんとなくわかってきたわ。こういうやつね。これがスルー力ってやつなのね!
上等じゃない、次こそ異世界送りにしてやるわ。
「あのー……」
へ?
「私、どうなったんでしょうか? さっきまでそこに立ってたんですが」
電柱!? あんた電柱じゃない! 無機物でも転生トラックが轢いたら転生させなきゃいけないの!? 今日のノルマこれで達成!?
『イセカよ……我が娘よ……』
はっ、パパ!?
『異世界送りは一日一回。あんまりやりすぎると
知ってるわよ!! でも、いくらなんでも電柱はないでしょ!? 異世界でこいつに何させろってのよ!? ちょっとパパ! パパぁ!!
くそう、いきなり来てあっさり帰りやがった。あんのヒゲもじゃマッチョ。
「それで私は、どうしたら……」
わかったわよ! 異世界で生まれ変わらせてあげるから向こうでインフラでも整備してあげて! えーと、電柱ぽい生き物……竹でいいか。あんたのスキルは「いい感じに枝が伸びる」で決まりっ!!
あっ!? そういえばあのガチャ、候補者を異世界送りにしないと次を回せない仕組みだったはず。てことは、いくらポイントを貯めてもあいつを転生させない限り次に挑めないってことか。ええい、明日こそ必ず仕留めてやるわ、あの平凡男!
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