第20話 マゼラー 1

年明け。

ハナは冬休み中に何度か房子さんに料理を習いに来た。

房子さんは娘が出来たようだと言って喜んだ。



房子さんは人をその気にさせるのが上手い。


「ハナちゃん、スジが良いね。これはすぐにヒサを追い抜くかもしれんね」


そう言ってハナを褒めた。


「やったぁ、本当ですか? えっ?ヒサも料理するんです?」


語尾のですます口調から言って、房子さんへの質問だが、目は私に問いかけている。


「んだよぉ、コレがするんさね、男だてらに。しかも、ボチボチうまいんね」


「へぇ〜 教え方が上手いんだと思いたいです」


なぜ、私のことを認めてくれないのか。


「ちょっとぉ、なんで内緒にしてるの? ちょっと 食べてみたい。 なにか作ってくれる?」


別に構わなかったが、これから食べる夕飯の分は、房子さんとハナで十分 作ってしまってある。

今更、私の一品を加える隙間など無いように思えた。


「自分のためにしか作らないんだ」


実際、私は房子さんや沢五郎さん、弟に料理を振る舞った事はない。房子さんがいるので、その必要がないのだ。


だから、事実を答えたが……


ゴッ!


房子さんの鉄拳を頭にくらった。


「女の子の望みは叶えたり!」


房子さんは、ハナへの接し方に厳しい。

気を付けてはいるが、今回のは無理だ。

ただ単に、事実を答えただけなのだから。


「あっ、大丈夫です。 いいんです。今日はもう、いっぱい作っちゃったし。また今度で……」


ハナが割って入る。


「イテぇ……、お茶漬けでいい?」


房子さんが、また腕を振り上げて威嚇する。


「いいよ いいよ。今度、食べさせて」


ハナが かばうように慌てて言ってくれたので、私は二発目の鉄拳を食らわなくてホッとした。


私はお茶漬けなど、今でも構わなかったが、

二人はもっと、正月らしい物を作れば良いのに、ラザニアを作っている。

お茶漬けを追加するのは、やめておいた。


後日 私は約束を守り、ハナにお茶漬けを振る舞うが、房子さんに お湯をかけるだけのお茶漬けは許してもらえず、霰を作るところからやらされた。

——やらされた?教えてもらった。



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