第13話 じゃれあうように

「う〜ん」


 ケンが私の部屋で唸っている。

 漫画とかで描かれる、あの「?」マークの頭の部分をグルグルにした念が体から発散されているようだ。

 私の部屋で変な念をまき散らさないで欲しい。


 ハナもいた。


「なにをそんなに唸っているのよ。認めちゃいなさいよ。いい出来でしょうよ」


 ハナは問題集を解いていたのだが、ケンの唸り声に根負けしたようだった。解くのをやめて、自分で書いた詩をケンの隣からのぞき込んだ。

 腕を組んでしばらく唸っていたケンが 負けを認めたように、


「うん、いいよ。 でも解せない」


「なによ、解せないって。 解しなさいよ」


「いや、だって詩だよ? 何かお前の琴線に触れるようなことがあった訳だろ?」


「そうよ、私のな琴線に触れる何かがあったのよ。 だから私は綺麗な音を奏でる事ができたのよ」


 ハナは一度 手の平を胸に当てて、自分の心の中にあるをイメージするかのように目を閉じた。

 それからカッと目を開くと、ケンを見て。


「文句ある?」


 ドスの利いた声でケンに言い放った。

 優しかったハナの声に突然ドスがかかり 私はビクっとなったが、ケンはそよ風を浴びるがごとく


「ある」


 ひとこと言い切って、主導権を奪い返した。


「文句あるし、今ので増えた。 まずお前の琴線は繊細じゃない、ワイヤーで出来てる。それに俺らは、だいたい いつも一緒だろ? 家と学校の往復の日々なのに、お前に 思いに耽られほどゆっくり 木を見ていられる時間があったと思わない」


「ワイヤーじゃないわよ」


「じゃ、何だよ」


 ハナも お琴の弦が何で出来ているか、知らないようだった。

 言葉に詰まってしまい、ここはケンに軍配があがるのかと思ったが、ハナは踏みとどまって言い返す。本当、仲がよろしいことだ。


「何で出来てるか分からないけど、繊細なのよ。たとえワイヤーで出来ていたとしても、繊細なワイヤーで出来てるのよ」


 二人のやりとりを聞いて、私は繊細なワイヤーを思い浮かべたが、うまく想像できなかった。

 勢いで言っただけだから、そんな想像はしなくていい!とでも言うように。ハナが語気鋭く、私に話しを振る。


「ねぇ!ヒサ。ヒサはどう思うのよ?」


「繊細なワイヤーは無いと思う」

「ちがう!」


「私の詩についてよ」


「いいと思うよ」


 ケンが声を殺して、肩で笑っている。


 ハナは私の返答が不満だったようだ、不満どころか苛立ちを煽ったらしい。


「あんたに聞くのがっ!–––––」


 怒気を含んだ声でそこまで言ったが、

 咳払いをして、


「どこが?……良かったの?」


 ごめんなさいの代わりなのか、しおらしい声で訊ねてくる。


「木を見てなかったのを、悲しんでる感じがしたんだ」










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