第10話 違和感

 私たち3人の通学路には坂があった。

 

 ちょっと正しく言い表せてないから、書き直そう。

 私たち3人の通学路は坂だった。


 3人とも、山の中ほどに家がある。文字にすると 少しややこしいが、登校時は下り、下校時は登る。

 ケンの「夏のある日」と題された詩は、その通学路の坂が舞台になっていると思う。

 

 下校時、基本 私たちは坂をのぼり続ける。

だが、起伏になっている場所がいくつかあり、その中でも ケンが詩の中でイメージしたのは、坂をのぼり切った道路脇に お地蔵様がいる坂だと思われる。


 坂を見あげた時に、坂の上が開けたように見えるのは そこしかないからだ。

 なぜ、詩の中の彼女が坂のにいると思ったのか……それは私自身にも分からない。けれど彼女は坂のてっぺんにいて、その先は下り坂になっている。

読んだ時に、そんな景色が頭に浮かんできたのだ。


 14歳。中学2年生くらいの時だ。

 3〜4年前、私たちは、もうとっくに知り合っていた。私たちが一緒にいる時間からすると、3〜4年は、たった。と言う感覚だった。


 詩の中の「彼女」がハナだとすると、そんな時期に二人は、私の想像より だいぶ上の階段を昇っていたのかと思い、そんな友人たちに対して、私は焦りを感じた。

 女の子は特に成長が早い。ケンも当時の私のように、置いてけぼりになる焦燥感を、14の思春期の頃に味わったのかも知れない。



 ケンの詩に対して、以上のような感想を当時の私は明確に持っていた。


けれど、

「どう?」


 ケンに問われた時に、感想を素直に言うことが出来なかったし、疑問に思ったことも 邪推しているようで、聞くことができなかった。


 焦燥感を感じたの?

 この坂はお地蔵様の坂?

 この女の子はハナ?

 柔らかさってなに?


 一つでも質問したら何かが綻んで、聞かなくても良いような事まで、聞いてしまいそうだった。


 私は淡白とは言え、この頃は 高校生だ。

 異性への興味が盛りの頃だった。

 特に私は奥手で未知のことが多く、分からない部分は妄想で補っていた。


 綻びから妄想が溢れ、ケンにどんなことを考えているのか 知られてしまうのが怖くて、感想の多さに反比例するように、口数を減らした。


 歯切れの悪い私に、ケンが詰め寄る。

「なんだよ、今回も結局『分からない』とか、答えるんじゃないだろうな?」


 モヤモヤとドキドキを抱えながら、何とか最小限の言葉数で、ケンを納得させようと必死に考えていたが、


「夏の……」

 焦れるケンの様子に負けて、見切り発射で話し始めてしまう。


「夏の?」

 焦れていたケンは、逃がさないと言った風に、先を促す。


「白昼夢の———…… 

 ………———蝉の声さえ………

 暑さに溶けて…………

 全てが蒸発したような、

 ————そんな白昼夢を見ているようだね」


 精一杯をこたえる。


「——なんだよ、それ。詩的じゃん」

 ケンは驚いたのか、間をあけて反応した。

 私の感想に不満は無いようだ。


 ホッとした私は違和感に気付く。

 このノートの回覧を始めてから、ケンの様子がおかしい。

 以前と変わらずよく笑い、一緒にいれば楽しいが、こんなに私を追い詰めるようなことは、今までしなかった。

 返答する時に、顔色をうかがわなくては いけないような、ケンがそんな態度を取って、私に接して来た記憶は無い。


(変だ)


 今しがたのやり取りも、ノートに記録するのかどうかを気にして、しきりに問いかけてくるケンを、私は上の空であしらいながら、


(今度ハナにノートを渡す時に相談しよう)


 そんなことを考えていた。





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