第25話 神殺しの神

 魔法と科学の先にあるもの。

 それは神をも滅ぼし竜をも超える、世界の法則にさえ干渉する存在。

 剣でも魔法でも、それを備えた軍でもない。


 兵器だ。


『ゴーレム……いや……』

「物を知らない神様に教えてやろう」

 短距離転移でコクピットに移動し、外部音声器を使ってアリウスは応じた。

「これはな、巨大ロボットって言うんだよ!」

 曲線と突起の融合した、異様な甲冑を装備した人型のシルエット。

 かつて数百年の時間をかけて、こことは異なる世界で実現した、最強の破壊兵器。

 人が操り、神や竜の力を持ち、魔法を行使し、世界を砕く。


 デウス・ウス・マキナ。複数の世界の知識を持つアリウスでも、多くの存在の助けを借り、貴重な素材と技術、何より時間をかけて作り出した。

 これはその完成形よりもはるかに劣った物であるが、それでも基本的なコンセプトは変わらない。

 即ち、人が神や竜といった超越存在に対抗するということ。


『神核炉正常運転、火器管制オールグリーン、防御機構作動。三神核正常に活性化』

 女性の声をした人工精霊ベルの報告に頷き、アリウスはマキナを起動させた。

「ベルダンディ初号機、起動」

 マキナが動き出す。その重量に見合わぬ、スムーズな動作で。

「行くぞ!」

 その突進は、竜の破壊力をも上回った。


 ルジャジャマンは成すすべもなく弾き飛ばされた。

 竜の蹂躙により、元々ほとんど力は残っていない。それに対してアリウスが選択したのは、竜よりもさらに強い力であった。

『脚部リアクター、負荷20%オーバー。有意提言。防御機構の使用を』

「それは許容範囲だ!」

 ベルの忠告を一蹴し、アリウスは攻撃を続けた。

 ルジャジャマンの魂を過ぎるのは絶望。神が人に対して覚える感情ではない。

 神が神たる所以、それが失われようとしている。


 マキナの攻撃は着実に、神の肉体を単純な破壊力で削っていった。

 しかしこれは神威による攻撃ではない。やはりかけている魔力の割には、効率が悪い。

『脚部マッスルパッケージ、過負荷12%、腕部同じく18%。有意提言。攻撃方法の変更を求める』

 出力に対して、構成素材が耐え切れていない。報告にはないが魔道回路の方も、長く戦えば処理能力が落ちるだろう。

「神威剣を発動」

『神威剣、両腕に発動します』

 マキナの拳には短い刃が生まれている。魔力の刃だが、同時に神の権能も持っている。

 出力や射程は今後の課題だが、とりあえずは足りる。


 殴るようにルジャジャマンを刻み、その力を削いでいく。

『エネルギー消耗比、前回より30%増大。有意提言。調整の必要を認める』

「終わってからな!」

 火器制御に問題がある。これが終わったらまた一から整備し直しだ。

『馬鹿な! 馬鹿な! 貴様はまさか転生者だというのか!? こんな! この世界にこんな!』

「この世界の文明レベルだと、かなり時間も手間もかかったけどな!」

 存分に削った後、肩の突起が起き上がり、ルジャジャマンを向く。

「滅びろ!」

 そこから放たれたのは光。

 純粋に権能をもって、神の存在のみを消し去るものだった。




 断末魔の悲鳴もなく、ルジャジャマンという存在は消えた。

 そう、存在だ。あれは神だと言うには、あまりにも脆弱すぎた。

 異世界の神を知るアリウスにとっては、中級下位とは言え、神の力はこの程度なのかという思いもあった。

 だが最初は下級の神でも手こずったのだ。これから大神と呼ばれる神や、それと対抗する邪神と戦うのなら、やはりマキナの改良は必要不可欠だ。

『両足関節固定部の固体部分に50%オーバーの消耗を確認。有意提言。至急パーツの復元、交換を要請する。動力部、火器噴射部に異常値感知。有意提言。速やかにテストを行い、危険性を排除すべし。制御系回路に断線を確認――』

「分かってるよ、ベル」

 固定されたコクピットから、アリウスは転移で脱出した。直後にマキナはその姿を消した。


「さて、と」

 戦争は始めることも、行うことも大変だが、後始末が一番大変だ。

 これは戦闘であって戦争ではないが、倒した相手が問題である。

 神威は消えた。この迷宮は、神域ではなくなった。

 邪神の側の神の迷宮なので、世間に与える影響はそれほどではないだろう。しかしアリウスが攻略し破壊してきた迷宮と違って、この迷宮は既に良く知られた迷宮であるのだ。

 邪神が滅びたということが公になれば詳しい調査が入るだろうし、神域の産物を提供する迷宮を中心として成立しているこの街は破綻するだろうし、周辺への影響も大きな物となる。


 ルジャジャマンの神核に触れる。肩まである巨大な球形の物だ。それに蓄えられる魔力も、人間の域を大きく超えている。

 これを利用して迷宮を再構築することは出来るが、もちろんそんなことはしない。それではわざわざ邪神と戦った意味がない。

 当初の予定では出力の低い他の神核と交換する予定だったが、途中でいいものが手に入った。

 樹霊珠。もちろん神核に比べるべくもないものだが、迷宮の核としては使える。植物系の核は長期間に渡って使えるのだ。


 これに擬似的な自我を与え、迷宮の核とする。おそらく難易度ははるかに下になるだろうが、迷宮としての機能は働く。

 何か変だと誰かが気付いても、原因を追及して判明させるのは難しいだろう。

 国が出てくれば話は別だが、邪神の迷宮の難易度が下がったというのは、とりあえず問題にはならないだろう。逆なら邪神の顕現の前兆かと思われるかもしれないが。

 もっともアリウスの知る限りこの世界の神は、地上の人間に積極的に干渉するつもりはないらしい。すくなくとも数千年か数万年は。

 アリウスの動きに気が付いたら、また話は別なのだろうが。


 全ての準備を終えたアリウスは、地上を意識した。

 邪神の神域ではなくなり、さらに新しい結界はアリウスが張ったものなので、他の人間には無理でもアリウスには地上の様子が分かる。

 迷宮に入る前に、さりげなく魔石をマーキング代わりに置いておいたが、それがはっきりと確認出来た。

 魔力は残っているが精神的には疲れているので、アリウスはあっさりと地上に転移した。

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