第23話  住む所

 ギルドに着くと丁度イザベラとターニャが打ち合わせ席で話をしている所だった。晃はズボンを履き替える等、身なりを整えてからギルドに入るべきだったのだが、一刻も早くイザベラに会いたい一心でそのままの格好で来てしまった。既に傷はないとはいえ、服は穴だらけで所々に血が滲んでいる。ダンジョンからギルドに向かう道中何人もの者から怪訝な目で見られ、冷たい視線を向けられていた。しかしそんな視線に全く気づかないお気軽な猪突猛進男である。


 魔石が十分溜まったのでこれで行ける!住む所々を確保できる!とルンルン気分である。腰に下げた剣は折れかけている状態で、歯こぼれが激しく、とてもではないが戦闘に耐えられるような状態ではない。しかし晃は気にしていなかった。ダンジョンでは最後は鈍器と化していたのだが。


 そうして打ち合わせをしている二人の所に意気揚々と呑気な声で


「ただいまー♪」


 と一言言う。しかし二人は晃の満身創痍に見えるその姿に口をパクパクしていた。一早く言葉を発したのはターニャである。


「あ、晃くん?怪我は大丈夫なのかしら?す、凄い状態に見えるのだけど?」


「あ、はいもう既に傷は塞がっています!確かに服とかボロボロですよね。傷の方はもう大丈夫ですよ。ほらこの通り。しかし女神の加護って凄いですよね!傷の治りがりがやたらと早いんですもん」


 その場で屈伸したり飛び跳ねたりして大丈夫感をアピールしているが、ジャンプした高さは装備をしているにも関わらず1 m近くジャンプしており、二人が驚いていたが、晃は何とも思っていなかった。


 呆れ顔で泣きそうなイザベラが


「晃君!君は一体全体どこまで行って、何と戦ってきたんだい?満身創痍のその状態って、命が危険な状態に陥ったんじゃないの?」


「はい!初心者層は行っても良いと思い込んでいて、5階層まで行ったんですが、そうしたら誰かを追っていたケンタウロスに遭遇して、傷だらけになりながら何とか倒した感じなんです」


 ターニャが


「ケ、ケンタウロスですって!」


 と大きな声で叫んでしまった


「あのね、晃くん?ケンタウロスは中級の魔物よ。君ねえ、倒したってそんな訳ないでしょ?普通初めてダンジョンに入る新人が5階層まで行かないし、ケンタウロスなんて倒せる筈がないのよ。何か特殊な魔法でも持っていたのなら別よ。君今は魔法なんて使えないでしょ?」


 ターニャに問い詰められる晃は乾いた笑いをするしかなく、取り敢えずケンタウロスの魔石と拾った弓を見せた。


「こ、これ間違いなくケンタウルスのね。レベル1でケンタウロスを倒すってどういう事よ?ちょっといい?」


 そう言うやいなや有無を言わせずターニャが晃の手を取ると驚いて顔をピクピクさせて


「初日でもうレベル2ですって!」


 大きい声を出していた。そうケンタウロスを倒したのでレベルが2に上がったのである。ターニャとイザベラはお互い驚いて見つめ合い口をパクパクし、絶句していた。


 晃は話に夢中になりついつい大事な事を忘れていた事に気が付き

「あの、ごめんなさい。話の途中だけど大事な事があるので先にそれをさせて欲しいなあ。何故か分からないけども、特別なロトを引けるんだよねー。常に何かを引けるのではなくて、何かイベントがあると引けるっぽくて、今回は、ってあれ?一つ増えているな。まあいいや、そっちは後でっと。その、未契約者女神との契約記念のロトがあって、住居を貰えるみたいなんだ。それには魔石が必要だったから、今日ダンジョンに行ったんだよね。なのでちょっと引いてみるよ」


 二人にもロトが見えたらなあと思うとテーブルの上に投影されたというよりロトの装置が出てきたようである。スーパーのセルフレジにレバーが付いた感じに見えた。お題にはロトを引くのに必要な対価が魔石を11個とあり、魔石を個投入口に入れる。そして画面に表示されているがあくまでも日本語である。しかし何故か二人にも読めたようで


「えっと、女神様これ行けるようだったら引いてみますか?」


「良いのかい?面白そうだね。では遠慮なく行かせて貰うよ」


 怪しげなレバーがあり、それをなんの疑いも無く下に下げると扉が開きルーレットが回り出すと、やがて金色の所で止まった。するとアナウンスが発生し、


「おめでとうございます。特別賞の没落貴族のボロ屋敷が当たりました!」


 気になるワードがあった。没落貴族はまあいいが、ぼろ屋敷とあるので嫌な予感しかしないが、貰えるも物は貰っておこうと言う質な晃である。そうしているとロトマシーンは自動で収納されたようだ。そしてギルドマスターが駆け寄ってきた。


「女神イザベラ様ようやくお渡し出来る物件がありました。古い屋敷ですので直さなければ住めませんが、当面は契約者が一人と聞いておりますので、本来は使用人の住まいとして使っておる離れを使われると良いでしょう。君は晃と言ったかね?頑張って稼いで女神様の住まう屋敷を直し、より良い環境で過ごさせてやるんだ。君次第だからな」


 と一方的に鍵と書類、地図をターニャに渡し


「ターニャ、悪いが誰かがこれから屋敷に案内し、引き渡さればならない。だから担当の君にお願いしたい。行ってくれるか?


「はい。私でよければ行って参ります」


 となぜか話がトントン拍子に決まる。ターニャによると女神が新たに降臨した場合はギルドにて最初の住居を提供する。今渡せられるのが説明のあった貴族のボロ屋敷と言う。恐る恐るだが3人で見に行く事になった。ただ、晃の格好は如何ともし難いので、先に近くの服屋に行き、冒険者用の服を購入し、その場で着替えさせた。穴だらけの服がまともな服になるだけでもかなり違っている。また、予備の服も買わせていた。晃は二人からの無言の圧力に屈する形で言われるがままに服を購入していた。ターニャが


「よし、これで君が多少はまともな格好になったわね。女神様の前でそんな格好は駄目だぞ!」


 と叱られる。最早弟扱いだ。イザベラはイザベラで


「こら晃くん!身なりに気をつけないと、女の子に嫌われるぞ!」


 と二人から似たような事を言われるが、二人して共通するのは自分が気になっているとは言わない。そう二人共男の服装のセンスに関しては特に文句を言わないのだが、今回は傷だらけな上に血だらけなので流石に周りの目があまりにも気になっていた。それと痛々しく思えるので冒険後の服だけは何とかして欲しい、という話になったのである。


 そうしてダンジョンの5階層まで行ってしまった事に対しての話がうやむやに消えてしまい、3人で屋敷に向かうのであった。

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