離れていても力になれるって、案外本当。――11

「だ、大丈夫かな、レイシー? 先輩たち、苦戦してるみたいだけど……」

「……信じるしかありません」


 ケイトさんにそう答えながらも、わたしは悔しくて仕方なかった。


 ウェルト空間探索への参加条件である、モスベアの討伐。


 ウェルト空間1階層での、エイシュゴーストとの戦闘。


 ウェルト空間4階層での、ドラゴン系モンスターとの一対一。


 数々の戦いをて、わたしは成長した――そのはずだった。


 けれど、エリーゼ姉さんとクレイド先輩の戦いを、わたしは外野から眺めていることしかできない。


 わたしはおごっていたのだろうか? 浮かれていたのだろうか? これはその罰なのだろうか?


 ロッドくんがピンチに陥っている。エリーゼ姉さんとクレイド先輩が苦戦している。


 自分の成長を活かすならここしかない。いつも助けてもらっている恩返しをするなら、ここしかない。


 それなのに、どうしてわたしはなにもできないんですか!! どうしてこんなに弱いんですか!!


 拳をキツく握りしめ、手のひらに爪が食い込む。


 自分への不甲斐ふがいなさに涙が出て、視界がにじみ、ぼやける。


 頭のなかは、無力感と焦燥感と怒りと悲しみでグチャグチャだ。


 力になりたい。力になれない。助けたい。助けられない。


 弱い自分が許せない。憤りのあまり胸が張り裂けそうだ。


 噛みしめた唇から血が流れる。情けなさに耐えきれず、嗚咽おえつが漏れる。


 思わず、本音がこぼれ落ちた。


「わたしは、みんなの力になりたくて頑張ってきたのに……!!」

「なら、力になってくれるか、レイシー?」


 返事がくるなんて、思ってもみなかった。


 目を見開き、わたしは振り返る。


 ロッドくんの、大きな背中があった。


 ディメンジョンキマイラと――強大すぎる敵と対峙たいじしながら、それでもロッドくんの声には、ひとつのもない。


「エリーゼ先輩とミスティ先輩の、手伝いをしてくれないか?」

「け、けど、リーリーとピートでは、とてもじゃないですが、ゲルドさんには太刀打たちうちできません!」

「クロがいる」

「クロ……さん?」


 わたしはキョトンとする。


『ピィッ!』


 足元を見ると、クロさんがピョンピョンと飛び跳ねていた。


「僕は戦えるよ!」と言うように。「一緒に戦おう!」と訴えるように。


「でも! クロのポテンシャルを引き出せるのは、ロッドの技術あってこそでしょ!? あたしやレイシーに、クロを扱うことなんてできるの!?」


 ケイトさんが心配そうに尋ねる。


 わたしの胸にも、ケイトさんと同じ不安があった。


 わたしなんかが、クロさんに上手く指示できるのでしょうか? ロッドくんのように戦えるのでしょうか?


「できる」


 わたしの不安を吹き飛ばすように、ロッドくんが断言した。


「自信がないなら、ふたりの成長を見てきた俺が言ってやる。レイシーもケイトも、すでに一級の従魔士だ」


「それに」と振り返り、ロッドくんがニッと歯を見せて笑う。


「レイシーは、俺の戦いをずっとそばで見てきただろ? だからできる。レイシーなら、クロを扱える」


 ロッドくんの言葉がわたしの胸に染み入った。


 無力感が、焦燥感が、怒りが、悲しみが、不甲斐なさが、情けなさが、溶けていく。


 代わりに芽生えるのは、希望と情熱。


 もう不安はない。あなたができると言ってくれたから。


 わたしは涙を拭い、覚悟を決めた。


「わかりました。やります」

「レイシー!?」


 ケイトさんがギョッとする。信じられないとばかりに目を見張る。


 それでも、わたしの覚悟は揺らがなかった。


「ロッドくんができると言ってくださいました。でしたら、わたしは応えるだけです」


 ケイトさんがポカンとして、大きく溜息ためいきをつく。


「そんなやる気満々まんまんな顔されたら、反対するあたしが悪者になっちゃうじゃない」


 諦めたように言ったケイトさんは、それでも清々すがすがしく笑っていた。


「ホント、レイシーはロッドが大好きすぎるよね」

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