ダンジョン攻略は、予備知識で決まる。――7

 対エイシュゴースト用にスキル構成を調整したのち、レイシーとケイトは再びエイシュゴーストに挑んでいた。


 ちなみに、今回のエイシュゴーストは光属性だ。


『モ……!』


 エイシュゴーストが力を蓄える。


 このエイシュゴーストの初手も、防御性能を強化するソリッドフォーム。『受け』の定石じょうせきだ。


 ソリッドフォームを許せば、またエイシュゴーストを倒しにくくなってしまう。


 しかし、レイシーとケイトの対策は万全だった。


「そうはさせない! ガーちゃん、『アンガーブリング』!」

『クワァッ!』


 ガーガーが目つきを鋭くし、赤紫あかむらさきのオーラを漂わせはじめる。


『相手を「怒り」状態にする』魔法スキル、アンガーブリング。チャージタイムは3秒。クールタイムは45秒だ。


 ケイトの選択を見て、俺はニヤリと口端くちはしを上げた。


「正解だ、ケイト」


『怒り』は、『30秒間、攻撃スキルしか使えず、勝手に相手を攻撃してしまう』状態異常だ。


 自己強化スキル、HP回復スキル、状態異常スキルは、基本的に攻撃スキルではないため、『怒り』状態では使用できない。


 そう。アンガーブリングこそが、『倒されにくい状況』を相手に作らせない、最善の手なんだ。


「ケロちゃんはいつも通りタウント!」

「リーリーもいつも通りエナジーアップです!」

『ゲロォッ!』

『リィ!』


 ケロが鳴き声を響かせてターゲットを自分に固定し、リーリーが両腕を広げ、自己強化スキルの準備に入る。


「次はウォータージェットだよ、ケロちゃん!」

「ピートはバーストチャージです!」

『ゲロッ!』

『ワウッ!』


 今度は攻撃指示だ。


 ケロが頬を膨らませ、ピートが強烈なタックルをエイシュゴーストに見舞みまう。


『モ……!』

『ワウ……ッ!』


 反動を受けつつも、ピートがエイシュゴーストにダメージを与えた。


「さらにシャープファングです!」

『ワウッ!』


 続いては直接攻撃。


 バーストチャージで肉迫にくはくしてからのシャープファングは、ピートの定番になってきたな。


『モ!』


 チャージタイムの3秒が経過し、エイシュゴーストがソリッドフォームを発動しようとする。


 だが、ガーガーがそれを許さない。


『クワァッ!』


 ガーガーがまとっていた赤紫のオーラが、エイシュゴーストに向けて放たれた。アンガーブリングだ。


 赤紫のオーラがエイシュゴーストにまとわりつく。


『モモ――ッ!』


 エイシュゴーストが、眉を上げ、目を三角にした。


『怒り』状態の発生。発動しかかっていたソリッドフォームが不発に終わる。


「ナイスです、ケイトさん!」

「うん! これで厄介なスキルは使われないよ!」


 策が決まり、レイシーとケイトがハイタッチした。


 そんなふたりにいきどおったように、エイシュゴーストが攻撃スキルの準備に入る。


『モ……ッ!』


 抱えていた石片を掲げる、エナジードレインの準備モーション。HP吸収効果を持つエナジードレインは、攻撃スキルだから『怒り』状態でも使える。


 だが、問題ない。


 エイシュゴーストのスキル構成は、ソリッドフォーム、ハイヒール、ヴァーティゴ、エナジードレイン。攻撃スキルはエナジードレインだけなので、エイシュゴーストはひたすらエナジードレインを撃つことになる。


 しかし、エナジードレインのチャージタイムは6秒で、クールタイムは15秒。


 つまりエイシュゴーストは、21秒に1回しかスキルを使えない状態になったんだ。


 エナジードレインにHP吸収効果があろうとも、インターバルが21秒もあれば、レイシーとケイトは、回復される以上のダメージを与えられる。


 しかも、リーリーによる支援バフもあるんだ。


『リィ!』


 そのリーリーが、エナジーアップを発動させた。


 俺は確信する。


「決着は早そうだな」





 あのあと、エイシュゴーストの『怒り』状態は一旦いったん治ったが、『味方モンスター1体を対象とし、スキルひとつのクールタイムをリセットする』リーリーの魔法スキル『ミスティックエール』により、即座にガーガーがアンガーブリング。


 再びエイシュゴーストが『怒り』状態になってハイヒールが不発に終わり、レイシーとケイトが押し切った。


 前回20分かかったエイシュゴーストとの戦いは、わずか1分で決した。


呆気あっけないくらい簡単に勝てましたね」

「さっき苦戦したのが嘘みたいだよ」


 ここまであっさり勝てるとは思ってなかったのか、レイシーとケイトが驚いている。


「モンスターのタイプやスキル構成を熟知していれば、対策も立てられる。従魔士じゅうましにとって、知識は武器になるんだ」

「まったくその通りですね!」

「これからはもっと勉強しないとね!」


 レイシーがコクコクと何度もうなずき、ケイトがグッと拳を握った。


「わたくしたちにとっても目から鱗でした。いままで速攻や力押しに頼っていましたが……『怒り』を活用するとは、思いもつきませんでしたね」


 ミスティ先輩が感心したように唸る。


 エリーゼ先輩が、降参したとばかりに両手を挙げた。


「ロッドくんは目の付け所が違う。敵う気がしないよ」

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