ツンツンしている子に、悪い子はいない。――5

 正午を過ぎ、俺たちは昼食をとることにした。


 運ばれてきたハンバーグを一口して、フローラが感心したようにうなずく。


「なかなか美味しいわね」

「言ったろ? おすすめだって」

「ええ。ロッドにしては上出来よ。褒めてつかわすわ」

「はいはい」


 偉そうな物言いだが、ハンバーグを食べるフローラは夢中な様子だ。一生懸命ナッツを頬張るハムスターみたいで微笑ましい。


 ここは以前、レイシーに紹介してもらったレストランだ。どのメニューも出来がよく、俺のお気に入りとなっている。


「けど、よかったのか? 店もメニューも俺が選んだけど」


 この店を訪れたのは、俺のお気に入りの店に連れて行ってほしいとフローラに頼まれたから。


 ハンバーグを注文したのは、俺のお気に入りのメニューにするとフローラが言ったからだ。


「せっかく観光するんだし、フローラが気になった店でよかったんだぞ? メニューも好きなのを選べばよかったし」

「それじゃあ、意味がないのよ」


 フローラの言いたいことがわからず、「意味?」とオウム返しする。


 フローラはチラリと俺を見やり、ふいっと視線を逸らし、頬を赤く染めて答えた。


「ロ、ロッドの好きな味を知りたかったんだから」

「なんでまた?」

「だ、だって、そうすれば、ロッドの好きな料理を作れるでしょ? ……あ、あたしは、あんたのお嫁さんになるんだから」

「へっ?」


 フローラの答えに動揺し、俺は手にしていたフォークを落としてしまう。


「か、感謝しなさい。このあたしが、あんたの食事を気にしてあげてるんだから」

「あ、ああ……ありがとう」

「……そんな素直にお礼を言わないでよ」


 恥ずかしさからか、フローラがうつむく。


 俺は心臓をバクバクさせながら、グラスの水を一気飲いっきのみした。


 こ、こいつ、なんていじらしいんだよ! つい、ときめいちまったじゃねぇか!


 しばしの無言。


 俺もフローラも、真っ赤な顔でハンバーグを口に運ぶ。


「……お前って、意外に健気けなげなんだな」

「お、お世辞せじを言ってもなにもあげないわよ」

「お世辞じゃねぇよ……そういうとこ、スゲぇ、グッとくる」

「にゃっ!?」


 フローラがネコみたいに鳴いた。

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