相手の手を読み切った者が、勝負を制する。――12

 アーマータックルがイービルヴァルキリーに叩き込まれる――寸前。


『WRRYYYYYY!』


 イービルヴァルキリーの体が、仄暗ほのぐらまくに覆われる。


 その膜が、マルのアーマータックルを受け止めた。


 イービルヴァルキリーのHPは、微塵みじんも減っていない。


「「「「「な……っ!?」」」」」


 先輩たちとレイシーが目を剥く。


「テンポラリーバリア……だと!?」


 エリーゼ先輩が愕然がくぜんとした。


 魔法スキル、テンポラリーバリア。クロが得意とするそのスキルの効果は、『次に与えられるダメージを無効化する』。


 アーマータックルは失敗に終わった。


 イービルヴァルキリーが、勝ち誇るように口端をつり上げる。


 先輩たちとレイシーが言葉を失う。


 俺は、フゥ、と息をついた。




「それで出し抜いたつもりか?」

『ムゥ!』




 固有アビリティ『憑依ひょうい』でマルと一体化していたユーが、飛び出した。


 ユーは『霊体状態』で、真紅のオーラに包まれている。


 パージとバーサクを使用した状態だ。当然ながら、HPは1で、STRは3倍になっている。


「お前が使っていたスキルは、ダーククレセント、ペンタグラムエッジ、ライトニングパニッシュメントのみっつ。最後のスキルは使用しなかったな」


 ということは、


「攻撃スキルである可能性は低い――使用しない理由がないからな。強化スキルである可能性も低い――使用したほうが戦闘を有利に進められるからな。妨害スキルである可能性も低い――使用しておけば確実に勝てただろうからな」


 残る可能性は、


「回復スキルか防御スキルだ――このふたつは、ピンチにおちいった際に使うのがセオリーだからな」


 加えて言えば、ゲーム内で、テンポラリーバリアを使用するイービルヴァルキリーがいたんだ。


 それならば、この世界のイービルヴァルキリーのなかにも、テンポラリーバリアを扱う個体がいてもおかしくない。


 俺は、イービルヴァルキリーがテンポラリーバリアを修得している可能性を考慮していた。


 だからこそ、


 勝利を確信していたイービルヴァルキリーの顔が、引きつる。


「裏ってのはこうやってかくんだよ。勉強になっただろ?」


 俺は最後の指示を出した。


「リバーサルストライク!」

『ムゥ――――ッ!!』


 キュドォオオオオオオンンンンッ!!


 ユーのロングソードが、イービルヴァルキリーをつらぬく。


『WRRRRYYYYYYYYYYYYYY!!』


 腹に風穴かざあなを空けられたイービルヴァルキリーが断末魔だんまつまを上げ、光の粒子となって消えていった。


 あとに残ったのは、舞い散る漆黒の羽だけだ。


「……わたしたちにくらい、ユーの存在を教えてくれてもよかったじゃないか」


 すねねたように肘で小突こづいてくるエリーゼ先輩に、俺は苦笑を浮かべる。


「ほら、『敵をあざむくには、まず味方から』って言うじゃないっすか」

「心臓に悪いよ、まったく」


 深々と嘆息たんそくし、「けど」とエリーゼ先輩が微笑む。


「これにて一件落着、だね」

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