エピローグ

「「「「「「「乾杯!」」」」」」」


 夕方。


 俺、レイシー、ケイト、先輩たちは、レドリアスのレストランでグラスを鳴らした。


 スペルタンが起こした一連の騒動。その収束しゅうそくを祝ってのものだ。


「それにしても驚いたよー。あたしが知らないあいだに大変な事件が起きていたなんて」

「おおっぴらにできない事件だったからな」

「なんか、ひとりだけ仲間はずれの気分だよー」


 ぷぅっと頬を膨らませるケイトに、俺やレイシー、先輩たちは苦笑する。


「先輩たちもロッドもスゴいよねー、レドリア王から報賞ほうしょうをもらったんでしょ?」


「なにもらったの?」と、好奇心に瞳をキラキラさせるケイトに、俺は答えた。


かく従魔士学校への設備投資だ」

「へ?」


 ケイトが目を丸くする。


「『スペルタンの脅威はこれからも続くかもしれません。対抗するには、従魔士の育成が必要不可欠です』って頼んだんだ」

「なんでまた……国を救ったんだから、一生遊んで暮らせる大金とかもらえたんじゃないの?」

「いまでも充分遊んでるよ。従魔士としてな」


 実際、なにより俺がしたいのは、『ファイモンの世界を楽しみつくすこと』だからな。


 それはもう、叶っている。


 だから、俺の次の望みは、『楽しみの邪魔をするやつを排除すること』。


 スペルタン対策として、従魔士の育成環境を充実させる――それが、俺にとって一番の報賞だ。


 俺がそう願ったとき、レドリア王もケイトと同じように呆気あっけにとられていたが、


「きみたちは本当に面白いな」


 と承諾しょうだくしてくれた。


「マサラニアさんの慧眼けいがんには恐れ入ります」


 レドリア王とのやり取りを思い出していると、ミスティ先輩がピッタリと俺に身をよせてきた。


「戦闘に関してだけでなく、国の未来を見据みすえた判断までできるなんて……ますます好きになってしまいました」


 スリスリとほおずりしてくるミスティ先輩に、「ちょぉっ!?」と俺は裏返った声を出す。


「ククククレイド先輩!? 先輩は、ロッドくんに負けたら身を引くんじゃなかったのですか!?」

「そそそそうですよ! 同じ四天王として、約束をたがえるなんて許せません!!」

「『なんでも言うことを聞く』とは申しましたが、『身を引く』とは一言も申していませんよ?」

「「はぅっ!?」」


 ミスティ先輩に斬り返されて、レイシーとエリーゼ先輩が、ガーン! という擬音オノマトペが似合う顔をする。


 レイシーとエリーゼ先輩は、しばしプルプルと震えていたが、


「ととととにかく! ロッドくんから離れてください!」

「レイシーの言うとおりです! 不純ですよ!」


 と、ミスティ先輩と競うように俺に密着してきた。


 なんだ、この状況!? てか、不純だって言ってるくせに、エリーゼ先輩も俺の左腕に抱きついているんだが!? それに、レイシーの胸が! たわわな胸が! 俺の背中で潰れている!!


「いやー、お熱い限りですなー」

「貴族としては、少々品性ひんせいに欠けると思うがな」

「爆発すればいいよ」

「ちょっ! 眺めてないで助けてくださいよ!」


 ニマニマ笑っているケイトと、溜息ためいきをついているグラント先輩と、笑顔だけど目が笑っていないサミュエル先輩に助けを求めるが、3人ともちっとも手を貸してくれない。


 俺は途方とほうに暮れる。




「なにハーレムしてんの、ロッド? 王侯貴族おうこうきぞくにでもなったつもり?」




 そこに、心底しんそこ呆れたような声が聞こえた。


 俺たちは、一斉いっせいに声がしたほうに目を向ける。


 そこにいたのは、中背細身の女性。


 つややかな青髪をサイドテールにまとめ、藍色の瞳をつり上げ、紺色のブレザーとプリーツスカートを身につけた、俺たちと同年代とおぼしき少女だった。


「「「「「「……誰?」」」」」」


 どことなく不機嫌なネコを連想させる少女の、突然の登場に、俺以外の全員が疑問符を浮かべる。


 そんななか、俺はひとり、厄介やっかいなことになりそうだなあ、と嘆息たんそくした。


 なにしろ、彼女は――




「あたしはフローラ・ネイブル。そこの女誑しロッド・マサラニア許嫁いいなずけよ」





―――――――――――――――――

※お知らせ


 第三章は4月6日からスタートします。

 第三章からは火曜、木曜更新となります。

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