相手の手を読み切った者が、勝負を制する。――10

 それからもわたしたちは奮闘ふんとうしたが、イービルヴァルキリーのHPバーは、まだ一本と1/4も残っている。


 長時間におよぶ戦闘に、わたしたちは疲弊ひへいしていた。


『WRRRYYYY……!』


 そんなわたしたちを嘲笑うかのように、イービルヴァルキリーがライトニングパニッシュメントの発動準備に入る。


 バチバチと帯電するロングソードを睨みながら、わたしは歯を食いしばった。


 負けるものか! ロッドくんは、ジェイク・サイケロアに負けて折れそうになっているわたしを、立ち直らせてくれた! ここで諦めたら、ロッドくんに合わせる顔がない!


 だから、諦めない。


 今度こそ約束を果たすと、決めているから。


 イービルヴァルキリーのロングソードから、雷光が迸る。


 わたしは目をらさずに、ゲオルギウスにガーディアンシップの発動を指示しようとした。




「マル、ガーディアンフォースだ!」

『キュウ!』




 の声が聞こえたのは、そのときだ。


 ライトニングパニッシュメントの雷撃に飲み込まれながら、それでもわたしはなんの痛みも感じなかった。


 いかずち奔流ほんりゅうが治まり、わたしは振り返る。


 そこに、ひとりの少女と、ひとりの青年がいた。


 思わず涙が出そうになった。


 真剣な面持ちの少女はレイシー。


 そして、不敵に笑う青年は――




「『ヒーローは遅れてやってくる』とはよく聞くが、まさにきみは、それを体現したような男だね、ロッドくん」




     ⦿  ⦿  ⦿




 ガーディアンフォースで先輩たちを庇い、俺はマルのHPを確認する。


 マルのHPは、1/2も残っていた。


 計算通りだ。オマケに、『温厚』が13回も発動して(先輩たち、俺、レイシーも含む)、マルのVITとMNDが、わけがわからないほど増加している。


 先輩たちを助けられたうえに、トドメまでの布石を打てて、一石二鳥だ。


「大丈夫っすか、先輩たち」

「ああ。感謝する、マサラニア」

颯爽さっそうとした登場過ぎて、正直、ちょっとけるけどね」

流石さすがはマサラニアさんです。あなたがいてくれれば、どのような苦境にも立ち向かえる気がしますね」


 生真面目に礼を言ってくるグラント先輩に、


 嫌味を言いながらも笑みを向けてくるサミュエル先輩に、


 こんな状況でも目をハートマークにしているミスティ先輩に、


 俺は、ニッ、と歯を見せる。


「ロッドくん、わたしは約束を果たせただろうか?」


 穏やかな表情で、エリーゼ先輩がいてきた。


 俺の答えは決まっている。


「ええ。必ず立ち直ると信じていましたよ」

「最高の褒め言葉だ」


 俺とエリーゼ先輩は、コツン、と拳を合わせた。


「ここまでイービルヴァルキリーを抑えてくれてありがとうございます。いま、どんな状況っすか?」

「HPは1本と1/4まで削ったのだが――」


 俺はエリーゼ先輩から現状を伝えてもらう。


 イービルヴァルキリーのHP、ステータス、スキル。


 先輩たちの従魔の消耗しょうもう度合い。


 残りのポーションの数。


 それらを確認し、俺は先輩たちに頼む。


「なんとかイービルヴァルキリーのHPバーを1本にしてもらえませんか? そこまで削ってくれたら、あとは俺たちが決めます」

「承知した。四天王の意地を見せてやろう」

「後輩に舐められたらたまったものじゃないからね」

「マサラニアさんのお願いとあれば、なんとしてでも果たしてみせます!」

「お膳立ぜんだては任せてくれ、ロッドくん」


 頼もしい先輩たちに、思わず笑みがこぼれる。


「レイシーは、リーリーの『ギフトダンス』で支援してバフをかけてくれ」

「了解です!」


 レイシーがビシッと敬礼し、俺は声を張り上げた。


「さあ、気張っていきましょう!」

「「「「「おう!」」」」」

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