相手の手を読み切った者が、勝負を制する。――9

『WRRYYYY……!』


 黒翼をはためかせて距離をとったイービルヴァルキリーは、苛立たしげに顔を歪め、ダーククレセントの準備に入る。


 負けずに、わたしも指示を出した。


「フォトンレイ!」


 ゲオルギウスが左手をイービルヴァルキリーに向け、その手のひらに光が収束していく。


 睨み合うゲオルギウスとイービルヴァルキリー。


 五秒後、フォトンレイとダーククレセントが、ほとんど同時に放たれた。


 黒い三日月と白い光線――闇属性を代表する攻撃スキルと、光属性を代表する攻撃スキルが交差する。


 ゲオルギウスとイービルヴァルキリーに、それぞれの攻撃が炸裂した。


 巻きおこる土煙。


 光属性のゲオルギウスにとって、闇属性は弱点だ。ペンタグラムエッジではわずかしか減少しなかったHPが、1/4まで削れる。


『WRRRYYYY……!』


 土煙のなかから現れたイービルヴァルキリーが、ニヤリと口端をつり上げる。


 光・闇属性のイービルヴァルキリーにとって、光属性のフォトンレイは弱点だが、HPバーは1ミリ程度しか削れていない。


 同じ弱点属性での攻撃でも、結果がまったく違う。


「くっ!」とわたしは歯噛みする。


「気にするな! 1体で敵わないのならば、全員で攻撃すればいい!」


 アームストロング先輩が激励げきれいを飛ばし、ガンドに命じる。


「『クラッグフォール』!」

『ゴオォ……!』


 ガンドがググッと力を溜める。


『30%の確率で相手のVIT・MNDを10%減少させる』追加効果を持つ、土属性の魔法攻撃スキル『クラッグフォール』の構え。


 わたしも気持ちを切り替え、ゲオルギウスとファブニルに指示を出す。


「ゲオルギウスは『アークスラッシュ』! ファブニルはストンプクエイク!」

(コクリ)

『GOOOOHH……!』


 クレイド先輩とカーマー先輩も、わたしに続いた。


「もう一度、アイスシェルです!」

『OOOOHH……!』

「こっちも行こう! ソニックチャージ!」

『クワァ……!』


 わたしたちの従魔全員が、イービルヴァルキリーにあらがおうと攻撃準備に入る。


 そんなわたしたちを嘲笑あざわらうかのように、イービルヴァルキリーのが発動した。


『WRRYYYYYY!』


 イービルヴァルキリーの周りに、漆黒の、6枚の盾が出現する。


「またですか!」

「本当に厄介だね!」


 クレイド先輩とカーマー先輩が眉をひそめた。


『1分おきに、あらゆる攻撃スキルを1回無効化する盾を、6つ生み出す』固有アビリティ『イージスのたて』。


 簡潔かんけつに言えば、ロッドくんのクロがよく用いる、テンポラリーバリアが6回張られた状態になる効果。


 この固有アビリティの存在も、わたしたちが苦戦している一因いちいんだ。


 わたしは焦りを隠せない。


 HPポーションとMPポーションが切れるのも、時間の問題だ! ポーションが切れたら、わたしたちに待っているのは敗北!


『WRRRYYYY……!』


 焦燥しょうそうつのらせるわたしたちを、イービルヴァルキリーは面白そうに眺めていた。

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