相手の手を読み切った者が、勝負を制する。――8

『WRRYYYY……!』


 追い打ちをかけるがごとく、イービルヴァルキリーがロングソードを脇構わきがまえにした。


 5連撃の直接攻撃。物理スキル『ペンタグラムエッジ』の準備。


 狙いは、先ほどの一斉攻撃の際、もっとも大きなダメージを与え、ヘイト値を稼いでしまったガンドだ。


 固有アビリティ『大火力』により、ガンドのHPは攻撃前より減っている。ペンタグラムエッジを食らえば戦闘不能になる可能性が高い。


 だから、わたしは命じた。


「ガンドを守れ、ファブニル!」

『GOOOOOOOOHH!』


 ファブニルがえ、ガンドを背にかばう。


『WRRYYYYYY!』


 チャージタイムの5秒が経過し、ペンタグラムエッジが発動した。


 ファブニルに肉迫にくはくしたイービルヴァルキリーがロングソードを振るう。


 銀閃五連ぎんせんごれん


 五芒星ごぼうせいを描くように剣戟けんげきが走り、ファブニルを斬り刻む。


『GOOOOOOHH!!』

「耐えてくれ、ファブニル!」


 アースドラゴンは、HP、VIT、MNDが揃って高い、防御性能にすぐれたモンスターだ。ペンタグラムエッジは耐えられるはず。


 それでも、ファブニルの苦悶くもんの叫びを聞いていると、願わずにはいられない。


 最後の剣戟が刻まれる。


 ファブニルのHPは、残り1/3。


 ペンタグラムエッジを終えたイービルヴァルキリーが後退する。


 わたしは安堵あんどの息をついた。


「助かった、エリーゼ! ファブニル、ポーションだ!」


 アームストロング先輩がわたしに礼を言って、ファブニルにHPポーションを放る。


 ポーションがファブニルに降りかかり、HPが全快ぜんかいした。


「ありがとうございます!」

「構わん! 次が来るぞ!」

『WRRYYYY……!』


 クールタイムが明け、イービルヴァルキリーが再び、ダーククレセントの準備に入る。


「チェシャ、ヴァーティゴです!」

『ミャア!』


 対し、クレイド先輩が動いた。


 チェシャが一鳴ひとなきし、イービルヴァルキリーの周りの景色を歪め、『目眩めまい』状態にする。


『WRRYYYYYY!』


 5秒後、頭をフラつかせながらも、イービルヴァルキリーがダーククレセントを放った。


 黒い三日月がガンドに迫り――その脇を駆け抜けていく。


「よし! ツいてる!」


 苦境のなかの小さな幸運に、カーマー先輩がグッと拳を握った。


 たしかに、ここでダーククレセントがはずれてくれたのはありがたい。おかげでゲオルギウスが『麻痺』しているあいだも、全員が無傷で済んだ。


 ゲオルギウスの『麻痺』が解ける。


 直ぐさま、わたしは指示した。


「ハイヒール!」


 ゲオルギウスが頷き、祈るように大剣を掲げる。


『WRRYYYY……!』


 ゲオルギウスに負けじとばかりに、イービルヴァルキリーがペンタグラムエッジの構えをとった。


 ハイヒールとペンタグラムエッジのチャージタイムは同じだ。必然、ハイヒールが先に発動する。


 神々こうごうしい光がゲオルギウスを包み、HPが半分少しまで回復した。


『WRRYYYY……!』


 が、ヒールヘイト(回復スキルを用いることで得るヘイト)により、イービルヴァルキリーのターゲットがゲオルギウスに移る。


『WRRYYYYYY!』


 ペンタグラムエッジが発動し、イービルヴァルキリーがゲオルギウスに、五芒星の剣戟を見舞った。


 問題ない。


 先ほどのライトニングパニッシュメントでは大ダメージを食らったが、それは5体分の攻撃を肩代わりし、なおかつ弱点属性だったからだ。


 VITとMNDが約4倍まで引き上げられているゲオルギウスは、物理攻撃なら余裕で耐えられる。


 事実、ゲオルギウスのHPはほとんど減らなかった。

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