悪事は怒りを買うから、結局は損。――8

「こうなりゃ、どうなろうが知ったこっちゃねぇ!! 俺の命をけてでも、使命をまっとうしてやるよ!!」


 ジェイクが制服の内ポケットに手をやる。


 瞬間、俺は駆けだした。


「シャドースティッチ!」

『ピィッ!』


 クロが影の触手を伸ばし、ジェイクの足を封じる。


 これでジェイクは動けない! 『死大神したいしん宝珠ほうじゅ』をはたき落とせば終わりだ!


「スペルタンに栄光あれ!!」


 ジェイクが叫び――その目が見開かれた。


「『死大神の宝珠』が、ないだと……!?」


 ジェイクが慌てふためき、ポケットをまさぐる。


 そのあいだに接近を終えた俺は、ジェイクを羽交はがめにした。


「な、なにしやがる!」

「お前ならわかるはずだぞ? 言っただろ、『スペルタンに栄光あれ』って。お前はスペルタンの一員だな?」


 ジェイクの顔が青ざめる。


「お前はイービルヴァルキリーを出現させる『死大神の宝珠』をここで使おうとした。立派なテロ行為だ」


 もはや抵抗は無駄だと悟ったのだろう。ジェイクがガックリと項垂れた。


 遅れて駆けよってきた衛兵たちが、ジェイクを拘束する。


 しかし、ジェイクが『死大神の宝珠』をなくしたということは……


「まさか、その者がスペルタンの一員だったとはな」


 俺が思考するなか、レドリア王がほがらかな顔で声をかけてきた。


大儀たいぎであったぞ、ロッド・マサラニア。きみにはなにか報賞ほうしょうを贈らねばな」

「いえ、まだ解決したとは限りません」


 進言しんげんすると、レドリア王は「む」と顔付きを真剣なものにする。


「ジェイクが保有していたらしい『死大神の宝珠』はなくなっていました。スペルタンの一員が、テロの道具をなくすなどというミスはしないでしょう。つまり、『死大神の宝珠』は、何者かの手中しゅちゅうにあるということ――スペルタンの脅威は去っていません」

「ふむ。たしかにその通りだ、警備隊を向かわせよう」


 レドリア王が、隣に立っていた側近に指示する。


「陛下」


 そんななか、俺は跪いた。


「私にも、捜索に協力させていただけないでしょうか?」

「きみはジェイク・サイケロアの捕縛に貢献してくれた。充分な働きだと思うが?」

「出過ぎたことを申しますが、私が満足していないのです」

「理由を話してみよ」


 尋ねるレドリア王を真っ直ぐに見据みすえ、俺は言う。


「レドリア学生選手権がスペルタンのテロ行為に利用されました。これは、選手権に参加した全生徒に対する冒涜ぼうとくです。優勝者の私に、どうして許すことができるでしょうか?」


 レドリア王が、一瞬、キョトンとした。


「……きみは変わっているな。だが、嫌いではない」


 レドリア王が満足げに笑い、バッ、とマントをはためかせ、片腕を振る。


「よかろう、ロッド・マサラニア! この混乱を収めてみせよ!」

「はっ!」


 俺は立ち上がり、声を張り上げた。


「レイシー、聞こえるか!?」


 サイキックラビットによる中継を眺めているだろう、レイシーに向けて。


「きみの力が必要だ!」

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