悪事は怒りを買うから、結局は損。――7

 話を切り上げ、俺は指示を飛ばす。


「アブソーブウィスプだ、クロ! ユーはエクスディフェンス! マルはアーマータックル!」

『ピィ……ッ!』

『ムゥ!』

『キュウ!』


 クロが体をたわめ、ユーが『防御態勢』となり、マルが体を丸めてギュルギュルと回転しはじめた。


「くっ! 『エナジードレイン』だ、ヴァンパイアメイジ!」

『キキキ……ッ』


 焦った様子でジェイクが指示し、ヴァンパイアメイジが両手を開く。


 ヴァンパイアメイジの両手から、血ヘド色の明かりが漏れ出した。


『エナジードレイン』は闇属性の魔法攻撃スキル。『与えたダメージの1/3分、HPを回復する』追加効果がある。チャージタイムは6秒だ。


 ジェイクは、マルのアーマータックルに対抗して、HP吸収効果のある攻撃スキルを選択した。


 ヴァンパイアメイジが生き残る可能性にかけて、攻撃されたあとのHP回復を狙ったのだろう。


『ピィッ!』


 俺が推測していると、クロのアブソーブウィスプが発動した。


 紫色の火の玉が、『麻痺』状態のレイスビショップにまとわりつく。


 続いて動いたのはマル。ヴァンパイアメイジよりも早かった。


 それも当然、チャージタイム4秒のアーマータックルに、後出しのエナジードレインが間に合うわけがない。


『キュウ!』


 マルが高速で地面を駆け抜け、ヴァンパイアメイジに体当たりを見舞う。


『キ……ッ!!』


 ヴァンパイアメイジが大きく吹き飛ぶ。HPバーが一瞬でなくなり、魔石となって転がった。


『歪曲の腕輪』と『温厚』×2で、VITが爆上げされたうえでのアーマータックルだ。防御性能にとぼしいヴァンパイアメイジが、耐えられるはずがない。


「さあ、仕上げだ!」


『時女神のネックレス』の効果で、本来の半分の時間=5秒でHP吸収が発生。HPを回復したクロがグニョグニョとうごめき、


『ピッ!』

『ピィッ!』


『分裂』により、クロの分身が現れた。


「行ってこい!」

『ピィッ!』


 俺の指示により、クロの分身が、レイスビショップに突撃する。


『ピィィィィ……』


 分身の体が、まばゆい輝きを放つ。


「バ、バカな……この俺が手も足も出ねぇなんて、あり得ねぇだろ! とっとと動けレイスビショップ! 俺に恥をかかせるつもりか!!」

「無茶言うな、『麻痺』を気合や根性で治せるわけないだろ」


「あと、言っとくけどな?」と、俺は冷たく言い放った。


「レイスビショップに落ち度はない。すべてはお前の采配さいはいミスが招いた結果だ」


 分身がレイスビショップのもとにたどり着いた。


「クソ……クソ……」


 ジェイクがガリガリと頭をきむしる。


「サクリファイスボム!」

「クソがぁああああああああああああああああああ!!」

『ピィ――――――ッ!!』


 クロの必殺技が炸裂さくれつした。


 分身が爆発し、ジェイクの叫びをかき消す。


 サクリファイスボムが起こした煙が晴れたとき、そこにあったのはレイスビショップの魔石だった。


 審判が告げる。


「勝者、ロッド・マサラニア!」


 試合を見守っていた衛兵たちから歓声が上がった。


 バルコニーで観戦していたレドリア王が、パチパチと拍手を贈ってくる。


 俺は、レドリア学生選手権の優勝者となった。


 だが、まだ終わりじゃない。


「クソッ! なにもかもお前の所為せいで台無しじゃねぇか!!」


 どうやら、ジェイクは悪あがきするつもりのようだからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る