悪事は怒りを買うから、結局は損。――1
レドリア学生選手権の本戦が終了した。
観客たちが
すでに選手のほとんどは控え室をあとにしているため、なかにいたのはたったひとりだった。
「エリーゼ先輩」
俺が呼ぶと、椅子に座って
「すまない、ロッドくん。約束、守れなかったよ」
エリーゼ先輩が
エリーゼ先輩は、手にしていたふたつの『
「試合中、ファブニルとゲオルギウスが『目眩』状態になっていただろう?」
「ええ。『酩酊の腕輪』の効果ですね?」
「お見通しか。はは……やっぱり、ロッドくんはスゴいね。どうやら、サイケロアくんにすり替えられていたらしい」
エリーゼ先輩は、
エリーゼ先輩もわかっているのだろう。この件を、訴えることができないことを。
状況的に、ファブニルとゲオルギウスの装備品をすり替えたのは、ジェイク以外に考えられないが、確固たる証拠がない。
悔しいが、泣き寝入りするほかにないんだ。
「わたしは、ロッドくんと決勝で戦うことを楽しみにしていた。はじめから、そのつもりでいたんだ。だからだろうね、頭がいっぱいになって、目の前の敵に集中できなかった。きみから警告は受けていたのだから、注意を払えば、サイケロアくんの細工も見抜けたはずなのにね」
おかげで、この
「ロッドくんの頼みを果たせず、無様な試合を演じてしまった。情けなくて仕方ない」
エリーゼ先輩が歯噛みする。
キツく握りしめられた拳は震えていた。
ここでエリーゼ先輩に同情するのは簡単だろう。しかし、同情したところで、エリーゼ先輩が得るものはない。
「そうですね。たしかに、エリーゼ先輩は不注意でした」
だから、俺はあえて突き放すように言った。
「返す言葉もないよ」
自嘲するエリーゼ先輩に、「けど」と続ける。
「エリーゼ先輩は、立ち直りますよね?」
エリーゼ先輩が目を見開く。
俺は先輩の目を真っ直ぐ見つめた。
「エリーゼ先輩が、いつまでもうつむいているはずがない。今日の失敗をバネに、より強くなる――俺が知っているエリーゼ・ガブリエルは、そういうひとです」
「そうか……そうだね」
エリーゼ先輩が、噛みしめるように
その顔に、自嘲はもうなかった。
「約束するよ、ロッドくん。わたしは必ず立ち直る。この約束だけは、どんなことがあっても
だから、
「少しだけ、待っていてくれ」
「はい。待っています」
エリーゼ先輩が微笑む。今度こそ、前を向いた笑顔だ。
もう、エリーゼ先輩は大丈夫だな。
意識するのは、憎むべき敵だ。
やってくれたな、ジェイク。流石の俺も、
だから、覚悟はできてるんだろうな? 俺は
俺はエリーゼ先輩に告げた。
「ジェイク・サイケロアは、俺が叩き潰します。
⦿ ⦿ ⦿
「話とはなんでしょうか? マサラニアさん」
夕方。
セントリア従魔士学校に戻ってきたあと、俺は学生寮の前に、ミスティ先輩を呼び出した。
「ミスティ先輩に、俺の言うことを聞いてもらいます」
ミスティ先輩がハッとする。
「勝者の権限、ですね?」
「はい。『試合に負けたほうは、勝ったほうの言うことをなんでも聞く』――そういう約束でしたよね? ミスティ先輩」
「え、ええ。ですが、マサラニアさんがここまで積極的だなんて思いませんでした」
頬を染めて、体をくねらせるミスティ先輩。
どうしてそんな反応をするのかはわからないが、今回ばかりはふざけてはいられない。
俺が真剣な顔をしていたからだろう。ミスティ先輩が恥ずかしがるのをやめて、
「どうされました?」と首を
「頼まれてほしいことがあります、ミスティ先輩」
俺は話を切り出した。
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