勝負で肝心なのは、やっぱり勝つこと。――14

「終わらせるぜ――『スマッシュクロー』だ!」

『GOAAAAAAHH……!』


 マッディーデーモンが右腕を振りかぶり、力を溜める。


 タイラントドラゴンも用いていた、直接攻撃の物理スキル、スマッシュクローの構え。 負けじと、エリーゼ先輩も指示を出す。


「『ボディープレス』!」

『GOOOOHH……!』


 ファブニルが四肢ししをたわめた。


『体重が重いほど威力が上がる』物理攻撃スキル、ボディープレスの準備。


 スマッシュクローのチャージタイムは5秒。ボディープレスのチャージタイムは7秒。


 必然、先に動いたのはマッディーデーモンだった。


「やれ」

『GOAAAAAAAAAAHHHH!!』


 短く冷酷なジェイクの命令で、マッディーデーモンが右腕を振り抜く。


 鋭利えいりな爪がファブニルを襲い、


『GOOOOOOOOHHHH!!』


 絶叫が木霊した。


 スマッシュクローの余波よはが、暴風となってステージを駆けめぐる。


 衝撃が控え室ここまで届き、ビリビリと大気が震える。


 やがて、風が巻き起こした砂埃すなぼこりが晴れたとき、ファブニルの代わりにあったのは、ひとつの魔石だった。


 マッディーデーモンは、1撃でファブニルを沈めたんだ。


 恐ろしいまでの威力。圧倒的な暴力。これほどの力を見せつけられれば、並の従魔士は意気消沈いきしょうちんするだろう。


 それでもエリーゼ先輩は諦めなかった。


 眉を上げ、眼差しを鋭くし、魔石を放り投げる。


「行け、ゲオルギウス!」


 2番手の従魔、ゲオルギウスが姿を見せた。


 しかし、


「ゲオルギウスまで『目眩』だと!?」


 ファブニルと同じく、ゲオルギウスもフラフラと頭を揺らしていた。


 ゲオルギウスの装備品が、『霊銀の腕輪』から『酩酊の腕輪』に変えられていたんだ。


 俺は舌打ちする。


 やはりか……!


 ジェイクがファブニルの装備品をすり替えたのは、試合に勝って決勝に上がるためだ。


 なら、ゲオルギウスを見逃すわけがない。ゲオルギウスの装備品もすり替えるに決まっている。


「どうするよ? そっちは『目眩』状態の従魔が1体。こっちは3体。しかも、うち2体は万全の状態だ」


 苦々にがにがしげに顔をしかめるエリーゼ先輩に、ジェイクが意地悪いじわるく口端を歪める。


「悪いこた言わねぇ、降参しろ。天地がひっくり返っても、お前に勝ち目はねぇよ」


 険しい顔をしていたエリーゼ先輩が、ゆっくりとまぶたを閉じた。


 ふぅー、と深く息をつき、目を開ける。


 迷いのない目だった。


 エリーゼ先輩が、凜然りんぜんと言い放つ。


「言ったはずだ。わたしには、負けられない理由があるとね」

「バカなやつだ」


 舌打ちとともに、ジェイクが吐き捨てた。


 エリーゼ先輩の心を折れなかったことに、苛立いらだっているらしい。


 面白くなさそうに眉をひそめ、ジェイクが溜息をついた。


「いいぜ? そんなにボロカスにされてぇなら、最後まで付き合ってやるよ」


 ふたりが、それぞれの従魔に指示を出す。


「フォトンレイだ、ゲオルギウス!」

「ブラッククレセント!」


 ゲオルギウスがコクリと頷き、左手を突き出す。


 マッディーデーモンが『GOAAAAAAHH!』と咆え、両腕をクロスさせた。





 エリーゼ先輩は最後まで諦めなかった。


 それでも、


『勝者、ジェイク・サイケロア!』


 ジェイクには、勝てなかった。

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