格上相手には、とにかく入念に準備するべし。――9

「……わたし、ロッドくんに伝えたいことがあるのです」


 戸惑っていると、レイシーがなにかを決意したように真剣な顔をした。


 力強いレイシーの眼差しに、俺はただ、「お、おう」としか答えられない。


 レイシーがシャツをギュッと握り、胸元にしわをつくりながら、俺を見つめる。


 エメラルドの瞳に吸い込まれてしまいそうで、俺は息をのんだ。


 レイシーが、緊張をしずめるように深呼吸して、口を開く。


「わたしは、ロッドくんのことが――」


 レイシーがなにかを言いかけた、そのとき、




 爆音とともに火柱がそびえ立ち、天をいた。




 その光景に俺が目を剥き、レイシーがバッと振り返った。


 火柱はいまだに消えず、空を焦がそうとしている。


 飛鳳船の乗客が騒ぎだし、その対応に、船員たちが慌ただしく走り回る。


「なんだ、あの火柱? クリム高原の向こう側……『レイヴァンやま』が発生源か?」


 俺が推測していると、レイシーが「あ……あぁ……」とかすれた声を漏らし、ガクリと崩れ落ちた。


 レイシーは自分の体を抱いて、カタカタと震えている。その顔色は真っ青だ。


 尋常じんじょうじゃないレイシーの様子に、俺はかがみ込んで肩を抱いた。


「レイシー、大丈夫か!?」

「そ、そんな……どうして、こんなときに……」


 レイシーは答えない。こちらの声が聞こえていないのか、「どうして……どうして……」とうわごとのように繰りかえす。


「レイシー!! マサラニアくん!!」


 レイシーの異常に困惑していると、エリーゼ先輩が血相を変えて駆けよってきた。


 エリーゼ先輩も俺と同じようにかがみ込み、レイシーをギュッと抱きしめる。


「エリーゼ先輩、レイシーは?」

「いま起きた出来事に、ショックを受けたのだろう」

「なにが起きたのか、わかりますか?」


 尋ねると、エリーゼ先輩は固い声で答えた。


「『タイラントドラゴン』が目覚めたんだ」

「『ドラグーンケイヴ』のロードモンスター……そういうことか……」


 ゲーム中盤のビッグイベント『タイラントドラゴンの討伐』。どうやらこの状況は、その導入部分らしい。


 なにが起きたのかは把握した。ただ、どうしてレイシーがここまでおびえているのかは、わからない。


「大丈夫だ、レイシー。わたしが必ずなんとかする」


 震え続けるレイシーを、エリーゼ先輩が一層いっそう強く抱きしめる。


 エリーゼ先輩の表情は、研ぎ澄まされた刃のように真剣なものだった。

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