格上相手には、とにかく入念に準備するべし。――6

 それから俺たちは、順調にライトウィスプを倒していった。


 1000個のアイテムを収められる『不思議なバッグ』がなかったら、魔石の持ち運びに苦労していたことだろう。


 そして、制限時間が10分を切ったとき、


 ズズゥゥ……ン……!!


 俺たちは巨大な地響きを耳にした。


「ロッドくん、いまのは!?」

「なにかバカでかいものでも倒れたのか? 地面の揺れが伝わってきたから、ここからだいぶ近いな」


 推測し、俺はレイシーに顔を向ける。


「行ってみよう、レイシー。エリーゼ先輩が巻き込まれている可能性も0じゃない」

「は、はい!」





 走ること約5分、俺たちの視界に、エリーゼ先輩とゲオルギウスの姿が映った。


「――――っ!!」


 レイシーが息をのむ。


 無理もない。エリーゼ先輩とゲオルギウスの前には、バケモノとしか呼べないようなモンスターがいたのだから。


 土色のゴツゴツとした鱗。

 ゲオルギウスすら超える、3メートルはあろうかという巨躯きょく

 短刀のような鋭い牙がならんだあぎと


 俺は舌打ちをした。


「こんなとこに出てくるやつじゃねぇだろ!」




 アースドラゴン:120レベル




 STR、VIT、MND、HPに優れた、土属性の重戦車。


 モンスターのなかでも突出した強さを誇る、ドラゴン系モンスターの、1体だ。


 アースドラゴンを前にして、エリーゼ先輩は大量の汗をいていた。


 ゲオルギウスの鎧には、ところどころ亀裂が入っている。


 一目で苦戦しているとわかる状況だ。


 苦戦するのも仕方ない。相手はただでさえ強力なドラゴン系モンスターなうえ、13レベルもの差があるのだから。


 おそらく先ほどの地響きは、アースドラゴンとゲオルギウスの戦闘で起きたものなのだろう。


 俺が推測していると、アースドラゴンがその巨体を沈ませた。高威力の物理攻撃スキル『バレットタックル』の構えだ。


 ゲオルギウスにトドメを刺すつもりだろう。


「エリ……ガブリエル先輩!!」


 レイシーが悲鳴を上げた。


 アースドラゴンの全身が砲弾となり、ゲオルギウスに迫る。


「させるかっ!」


 俺は直ぐさまクロを呼び出し、


「行ってこい、クロォオオオオオオオオッ!!」

『ピィ――――ッ!!』


 思いっ切りぶん投げた。


「『シャドースティッチ』!」

『ピィッ!』


 空中で指示を受けたクロが、影の触手を伸ばす。


 ゲオルギウスにバレットタックルがぶち込まれる寸前、影の触手がアースドラゴンの動きを封じた。


 アースドラゴンとゲオルギウスの間隔はわずか数センチ。まさに紙一重かみひとえだ。


「レイシー!? マサラニアくん!?」


 走ってくる俺たちに気付いたエリーゼ先輩が、制止するように両腕を広げる。


「来てはダメだ! このモンスターは、きみたちの手には負えない!」

「だからって見捨てられるはずないでしょうが!」


 エリーゼ先輩の警告を突っぱね、俺はメニュー画面を開き、アースドラゴンのHPを確認する。


 表示されたHPバーは半分を切っていた。


 格上相手に大したものだ。流石はエリーゼ・ガブリエル。四天王の肩書きは伊達だてじゃない。


 これなら、いける!

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