格上相手には、とにかく入念に準備するべし。――4

「どうしましょう、ロッドくん。ゲオルギウスさんが強すぎです!」


 勝負開始から5分。


 俺の隣を歩くレイシーが、不安げに見上げてくる。


「まさか一撃で5体も仕留しとめるなんて……あの調子では、あっという間に魔石を集められてしまいますよ!」


 不安になるのも当然だろう。ゲオルギウスのフォトンレイは、それだけの威力があったのだから。


 並の従魔士なら勝負を放り出してもおかしくない。


 もちろん、俺に放り出すつもりはないが。


「心配するな、レイシー。想定の範囲内だ」

「ですが、ライトウィスプの固有アビリティを考慮こうりょしますと、状況は絶望的としか言えません!」


 俺が鼓舞こぶするも、レイシーの表情は曇ったままだ。


 まあ、仕方ないかもしれないな。今回の勝負では、クロを頼れないし。


 ライトウィスプの固有アビリティは『転移てんい』。HPが1/4以下になると、戦闘から離脱りだつしてしまう能力だ。


 この『転移』は逃走には当てはまらないため、シャドースティッチで封じることはできない。


『倒せない』という意味では、ライトウィスプはクロの天敵だ。


 いままでレイシーは、クロが大活躍するところを何度も目にしてきた。


 だからこそ不安になるんだろう。そのクロの戦法が、ライトウィスプに通用しないから。


 そんなレイシーに、俺はニカッと笑ってみせる。


「大丈夫だ。たしかにクロは使えないけど、今回の主役はユーだからな」

『ムゥ!』


 意気込むように、俺たちの先を行くユーが応える。


 そう。俺は今回の勝負に、ユーだけで挑むつもりなんだ。


「けど、ユーさんのスキルでライトウィスプを倒せるのでしょうか? クリム高原のライトウィスプは20レベル前後。ゴーストナイトの魔法攻撃スキルでは、大したダメージを与えられないと思うのですが……」


 レイシーの意見はもっともだ。


 ゴーストナイトの魔法攻撃スキルは優秀だが、INTが低いため、プラスマイナスで威力は平均以下。レベル差は10あるものの、ライトウィスプのHPを1/4以上削る威力はない。


 それでは100%の確率で『転移』されてしまう。


 それならSTRを活かして物理攻撃スキルを、との考えが浮かぶが、ゴーストナイトの物理攻撃スキルは、『命中率半減』、『状態異常じゃないと使えない』などクセのあるものばかり。


 正直、ほかのモンスターを使ったほうが効率はいいだろう。


 しかし、俺はレイシーに言ってのける。


そうだろうな」


 レイシーがいぶかしげに眉根を寄せて、首をかしげた。


「どういう意味ですか?」

「論より証拠ってやつだ。見たほうが早い」


 前方にライトウィスプを見つけた俺は、レイシーに笑いかけ、ユーに命じた。


「行ってこい、ユー!」

『ムゥッ!』


 俺のめいに従い、ユーが飛び出す。


 迫ってくるユーに気付き、ライトウィスプが臨戦態勢をとった。


 さあ、初陣ういじんだ。観客はレイシーだけだが、度肝どぎもを抜いてやろうぜ、ユー!


「『パージ』!」

『ムゥ!』


 俺の指示を受け、ユーが両腕を広げる。


『疾風の腕輪』から風が吹き出した。


『疾風の腕輪』の効果は、『戦闘で最初に使ったスキルに限り、チャージタイム0秒かつ先制できる』というものだ。


 腕輪の『先制効果』により、真っ先に発動するパージ。


 ユーの鎧が音を立てて弾け、




 ユーのHPが1になった。

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