結局のところ、やる気があるやつは応援したくなるのが人情。――7

 それから数十分が経ち、俺とレイシーは、エイシス遺跡の深部にたどり着いた。


 俺たちの前にはドーム型の大部屋が広がっており、その中央には、ロードモンスターの姿があった。




 メタルゴーレム:33レベル




 鋼色の角張かくばった巨体は、体長3メートル、胴幅どうはば2メートルといったところだろうか。


 丸太のような腕は長く、地面すれすれまである。


 メタルゴーレムは、二本のHPバーを持つ、鋼属性のモンスター。


 STR、VITにすぐれるが、DEX器用さ(スキルの命中率、クリティカルの発生率に影響する)、AGI、INTが低い。スキルは物理攻撃オンリーという重戦士だ。


 隣にいるレイシーが、メタルゴーレムの存在感にゴクリとつばを飲んだ。その手がかすかに震えている。


「大丈夫か、レイシー?」


 尋ねると、レイシーがまぶたを伏せて、深呼吸した。


 ギュッと拳を握り、レイシーが目を開ける。


「大丈夫です」


 レイシーの手の震えは収まっていた。


 眉を上げた凜々りりしい顔付きだ。


 レイシーの胆力たんりょくを頼もしく感じながら、俺はクロを呼び出す。


「覚悟はいいか、レイシー?」

「はい!」


 力強く返事をして、レイシーもリーリーを呼び出した。


「よし、いくぞ!」


 号令とともに、俺たちは大部屋に踏みこんだ。


『GIGIGIGIGIGI……!』


 俺たちの侵入を感知したメタルゴーレムが、長い両腕でファイティングポーズをとる。


「行ってこい、クロ!」

「頑張って、リーリー!」

『ピッ!』

『リー!』


 クロが伸び上がり、リーリーがコクリと頷く。


 飛び出してきた俺たちの従魔を前にして、メタルゴーレムの目が赤く光った。


 俺はその視線の先を注視する。


 さて、まずはクロとリーリーのどちらをターゲットにするか、だな。


 集中する俺の前で、メタルゴーレムの視線がリーリーに向けられた。


 瞬間、俺はクロに指示を出す。


「テンポラリーバリアだ! リーリーをかばえ!」

『ピィッ!』


 フェアリーアーチンのAGIは全モンスターちゅう最高で、メタルゴーレムのDEXは、モンスターのなかではかなり低い。


 それでもレベル差がありすぎるため、回避だのみはリスクが大きいだろう。


 一発でももらえば、リーリーは戦闘不能だ。ここはなんとしても庇わないといけない。


 クロが仄暗ほのぐらい膜をまとったのと同時、メタルゴーレムが拳を引き絞った。


 構えられた右腕の肘から、バシューッ! と蒸気が噴き出す。


 先制効果を持つ直接攻撃スキル、『ジェットパンチ』のモーションだ。


 ゲームでは、先制攻撃より先に動くことは不可能だ。リーリーが狙われても、指をくわえて見ていることしかできない。


 だが、この世界では違う。


 視線の動きやモーションで先読みすれば、先制攻撃より早く動くことができるんだ。


 そして、俺はメタルゴーレムのスキル構成を把握している。あらかじめ手札がわかっていれば、どう対処するかも決めておける。


 ジェットパンチが発動した。


 質量を無視するようなスピードで、メタルゴーレムの拳がリーリーに迫る。


 リーリーに拳が叩き込まれる寸前、そのあいだにクロが割って入った。


『ピィ……ッ!』


 メタルゴーレムの拳を、クロのテンポラリーバリアが受け止める。


 ジェットパンチの勢いで、仄暗い膜がはじけ飛んだが、クロとリーリーは無傷だ。


 レイシーが安堵あんどの息をつく。

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