結局のところ、やる気があるやつは応援したくなるのが人情。――8
俺は
「アブソーブウィスプ!」
『ピッ!』
着地したクロが力を溜める。
間髪入れずに指示を出した俺を見て、レイシーがハッとした。自分が気をゆるめていたことに気付いたのだろう。
一歩遅れて、レイシーも指示を出した、
「リーリー、『アクセル』です!」
宙を舞うリーリーが、ス、とまぶたを伏せる。
自分のAGIを30%上昇させるスキル、『アクセル』の準備だ。
俺たちが一手打つあいだに、メタルゴーレムも動いていた。ゴツゴツとした両手の指を組み、ゆっくりと両腕を上げていく。
両拳をハンマーのように叩きつける、強大な威力を持った直接攻撃スキル『スマッシュハンマー』だ。
メタルゴーレムは、クロに狙いを定めていた。
メタルゴーレムはSTRが優れているし、レベル差もある。高いVITを誇るクロでも、スマッシュハンマーを食らえば、HPの1/2は持っていかれるだろう。
そして、HPが3/4以下になれば、『分裂』を行うことはできなくなる。勝ちの目も一気に薄くなるだろう。
けど、スマッシュハンマーは強力な分、チャージタイムが10秒もある。そのあいだにいくらでも対処できるぜ!
リーリーのアクセルが発動し、続いてクロのアブソーブウィスプが放たれた。
即座に指示を出す。
「クロ、距離をとれ! そんで、シャドースティッチだ!」
『ピッ!』
クロがピョインピョインと飛び跳ねながら、両腕を振りかぶるメタルゴーレムから離れていく。
拳が届かない位置まで退避してから、クロがシャドースティッチを用い、影の触手でメタルゴーレムの足を封じた。
これでスマッシュハンマーは空振りで決まりだ。
いいぞ、順調に進んでる!
俺は小さくガッツポーズをとった。
「スマッシュハンマーの発動までにはまだ時間がある! 続けて『シャドーヴェール』だ!」
『ピッ!』
メタルゴーレムにヴァーティゴが通じない以上、スキル構成に入れておくのはスロットの無駄遣いだ。
だから俺は、メタルゴーレム攻略用の新たなスキルを、クロに特訓で修得させていた。
シャドーヴェール:魔法スキル
消費MP:10 チャージタイム:2秒 クールタイム:30秒
効果:相手のDEXを30%下げる
『ピィッ!』
チャージタイムが過ぎ、クロがシャドーヴェールを発動させた。
メタルゴーレムの周りを、薄闇色のカーテンが覆う。
これは
相手のDEXを下げることは、今回の作戦で非常に重要なんだ。
俺たちが次々と手を打ったあと、ようやくスマッシュハンマーが発動した。
メタルゴーレムの巨大な両拳が振り下ろされ、地面に叩きつけられる。
地響き。
グラグラ揺れる地面と、衝撃が巻き起こした風に、レイシーが「きゃあっ!」と悲鳴を上げる。
しかし、スマッシュハンマーの範囲外に退避していたクロとリーリーは無事だ。
『GIGI……!!』
心なしか悔しそうに鳴き、メタルゴーレムがクロに右腕を向ける。
右拳を飛ばす物理攻撃『ロケットパンチR』の構えだ。
クロを狙い続けるメタルゴーレムに、俺はニヤリと
「ヘイト管理もバッチリだな。このまま俺の手のひらの上で踊ってもらうぜ?」
『ヘイト』とは、敵対行動をとった際に蓄積される、『相手からの
ヘイトを貯める行為は、『相手にダメージを与える』、『ステータス減少・状態異常などの妨害』、『味方のHPの回復』など。
相手のモンスターはヘイト値が高い従魔を優先して狙い、従魔にダメージが与えられると、その従魔のヘイト値は減る。
そして、ヘイト値を、こちらの都合がよくなるように調整することを、『ヘイト管理』と呼ぶんだ。
戦闘開始時はヘイト値が0だったため、メタルゴーレムがクロとリーリーのどちらを狙うかはわからなかった。
だが、アブソーブウィスプ、シャドースティッチ、シャドーヴェールを用いたことで、現在、メタルゴーレムのターゲットはクロに定められている。
今回の戦法では、ヘイト管理がキモとなる。そして、いまのところは俺の計画通りに進んでいた。
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