弱小モンスターが大器晩成型なのは、育成ゲームではよくある話。――16

「勝負が終わってからケチをつけるなど、醜いとは思わないのか?」

「い、いえ、僕はただ、この男の不正を暴こうとしているだけですよ」


 それまでの態度が嘘のように、カールがこびを売るような声音で、エリーゼ先輩に弁解する。


「ブラックスライムがサンダービーストに勝つなんてあり得ない。この男は神聖な決闘を汚したんです。ガブリエル先輩ならわかってくれるでしょう?」


 まるで、権力者にゴマをする取りまきのようだ。


 卑屈ひくつな態度をとるカールを、エリーゼ先輩が鋭い目付きで睨む。


「たしかに、きみと彼との戦いは汚されたようだ」

「その通りです! この落ちこぼれがいやしい不正を働いて――」

「きみの不正によってな、ヒルベストンくん」


 得意げに俺をけなそうとしたカールが、笑みを凍らせた。


「きみはパワーレベリングを行った。そうだね?」

「な、なにをおっしゃっているのかわかりませんね……そ、そもそも、証拠がどこに――」

「ほう? きみにパワーレベリングを強要されたと相談してきた生徒がいるのだが?」

「なっ! あ、あの男、平民のくせに……!」

「語るに落ちたな」


 うっかり口を滑らせたカールに、エリーゼ先輩が溜め息をつく。


「きみを生徒指導室へ連れていかねばならない」

「ま、待ってください! 貴族の僕が、平民如きに負けていいはずがない! だから、パワーレベリングは適切な行為だったのです! 同じ貴族のあなたなら、わかっていただけますよね?」

「わからないな」


 悪あがきするカールに、エリーゼ先輩がキッパリと言い切った。


「なんの努力もせず、他者のスネをかじることしかしないやからの考えなど、わかりたくもない」


 エリーゼ先輩の眼差しは氷点下だ。


 あからさまな嫌悪を向けられて、カールがガックリと項垂うなだれる。


 微塵の容赦ようしゃもなくバッサリ切り捨てたな。見ていて気持ちいいほどだ。


 ゲームに登場するエリーゼ・ガブリエルはストイックなキャラだったけど、この世界でも同じみたいだな。楽して強くなろうとパワーレベリングしたカールへの反応に、彼女の性格が如実にょじつに表れている。


「災難だったな、マサラニアくん」


 項垂れるカールを連行する途中、エリーゼ先輩が振り返り、俺を労る。


「いえ。難癖なんくせをつけられても、そのたびに払拭すればいいだけですし、大丈夫です」

「ははっ、きみは強いな」

「けど、エリーゼ先輩には助かりました。ありがとうございます」


 俺が一礼すると、エリーゼ先輩は微笑みながら、「構わないよ」と手を振った。


 次いでエリーゼ先輩は、俺の隣にいるレイシーに、優しげな目を向ける。


「レイシーは大丈夫かい?」


 エリーゼ先輩の表情は穏やかで、レイシーへの親愛が感じられた。


 そんなエリーゼ先輩の様子を、俺は不思議に思う。


 エリーゼ先輩はゲームに登場するけれど、レイシーはそうじゃない。しかし、エリーゼ先輩のレイシーに対する態度からは、親密さがうかがえる。


 エリーゼ先輩とレイシーは、親しい間柄あいだがらなのか? そういう裏設定でもあったのだろうか?


 疑問を抱きながら隣に目をやると、レイシーはエリーゼ先輩に、ス、とうやうやしく頭を下げた。


「気にかけていただきありがとうございます、ガブリエル先輩。わたしはこのとおり無事ですので、お気になさらず」


 エリーゼ先輩とは正反対で、レイシーの態度は慇懃いんぎんなものだった。丁寧ていねいすぎて、よそよそしくも感じる。


 エリーゼ先輩は、頭を下げるレイシーを見て、どこか寂しそうな顔をした。


「……いや、先輩として当然のことをしたまでだよ、


 エリーゼ先輩は改めて前を向き、振り返ることなくカールを連れていった。


 エリーゼ先輩を見送り、俺はレイシーに尋ねる。


「エリーゼ先輩と知り合いなのか?」

「ええ、ちょっとした知り合いです。そんなことより、ロッドくん、昔から戦い方の研究をしてきたということですが――」


 わかりやすくレイシーが話をらす。


 どうやら、エリーゼ先輩とレイシーの関係は、複雑なもののようだ。


 レイシーの屈託くったくのない笑顔を眺めながら、俺はそんな感想を抱いた。

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