結局のところ、やる気があるやつは応援したくなるのが人情。――1

 翌朝。1―Aの教室。


「ロッドくん! リーリーの育成についてアドバイスをいただけないでしょうか!?」


 窓際まどぎわ最後列にある自分の席に座っていると、レイシーが近寄ってきて、ペコリと頭を下げた。


 突然のお願いに、俺は目をしばたたかせる。


「リーリーって、あのフェアリーアーチンのことか?」

「はい!」

「アドバイスして欲しいって、どうして俺に?」

「ロッドくんが、ものスゴく優秀な従魔士だからです!」


 俺が尋ねると、たわわな胸の前で両の拳をギュッと握り、レイシーがズイッと身を乗り出してきた。


「カールくんとの模擬戦をて確信しました! ロッドくんは、わたしが知っているなかで一番の従魔士です!」

「それは流石に大袈裟おおげさじゃないか?」

「大袈裟なんかじゃありません! ブラックスライムをあんなにたくみに操るひとは、ロッドくん以外にいないのですから!」


 頬を掻きながら謙遜けんそんするも、レイシーはなおも俺のことを持ち上げる。


 レイシーが俺に対して抱く敬意は、どうやら想像以上らしい。


 ていうか、メチャクチャ顔が近い! レイシーの可愛らしい顔が、いまにも触れてしまいそうだ!


 レイシーって幼い顔立ちだけど、まつげは長くて色っぽいんだな……桃の果実みたいな甘い匂いもするし……イカン! ドキドキしてきた!


 女性と縁のない人生を送ってきた俺には、少々刺激が強い。


 俺はレイシーの顔から逃れるために背をらしながら、「あ、ありがとな」とぎこちない笑みを作る。


「アドバイスしてほしいってことは、育成に関して悩みがあるんだよな? とりあえず、どんなことで悩んでいるのか教えてくれるか?」


「はい!」と元気よく返事して、レイシーが姿勢を正す。


 レイシーの顔が遠ざかったことで、俺はひそかに安堵あんどの息をついた。


「そもそも、フェアリーアーチンの能力をどうかせばいいのか、まったく見当がつかないのです」


 レイシーの眉尻が、困ったように下がる。


「AGIが全モンスターのなかでトップという部分は素晴らしいのですが、攻撃性能の低さがどうにもならないのです。モンスターを倒せないくらいの貧弱さで、レベル上げすらままならない状態でして……」


 たしかに、フェアリーアーチンを初期モンスターとして授かっていたら、俺でも苦労しただろうなあ。


 シュンと肩を落とすレイシーを眺めながら、俺は内心でひとりごちる。


 レイシーの言うとおり、フェアリーアーチンのAGIは全モンスター中最大だ。固有アビリティである『加速かそく』も、『10秒毎にAGIが10%上昇する』という優秀さ。AGI一点において、フェアリーアーチンに勝るモンスターはいない。


 しかし、攻撃性能はぶっちぎりの最下位。STR、INTともに、最大レベルまで育てても、10レベルの平均程度という体たらくだ。


「調べてみて、優秀な自己強化スキルを修得できることはわかったのですが、そもそもの能力値が低すぎて、戦えるレベルにならないのです」


 加えて、修得するほとんどのスキルが自己強化系。


 残念な攻撃性能を補えればよかったのだが、元のステータスが低すぎて、いくら用いても焼け石に水状態。


 はっきり言って、状態異常スキルを修得してもらったほうがありがたいくらいだが、それすらも覚えない。


 レイシーが苦労するのも無理はないだろう。正直、同情せずにはいられない。


 それにしても、ちゃんと一通り調べてから尋ねているんだな。パワーレベリングしたカールとは大違いだ。


「後日、必ずお礼をいたしますので、どうか力になっていただけないでしょうか?」


 俺が感心していると、レイシーが再び頭を下げた。

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