弱小モンスターが大器晩成型なのは、育成ゲームではよくある話。――3

「次、ロッド・マサラニア」

「あ、はい!」


 頭をひねっていた俺は、リサ先生に呼ばれ、慌てて返事をする。


 ひとまず考えるのはあとにしよう。いま大切なのは、どんな従魔を手に入れられるかだからな。


 俺はゴクリとつばを飲み、紋様のなかに足を踏みいれた。


 さて、どいつが出てくるかな? 頼んます、神さま!


 日本式に合掌すると、紋様が光を放ち、俺の前で集束していき――


『ピッ!』


 ハンドボールサイズの、真っ黒なスライムになった。


 静まり返る儀式場。


「……ブラックスライムだ」


 ポツリと誰かが呟いて、


「うっわあ! よりによってブラックスライムかよ!」

「Fランクモンスターの代表格ね。お気の毒としか言えないわ」

「前途多難だな、彼は」


 同情と憐憫れんびんの声が次々と上がる。


「はっ! 平民にはお似合いのモンスターだね!」


 先ほどサンダービーストを手に入れ、羨望せんぼうの眼差しを浴びていたカールが、俺を嘲笑あざわらう。


 そんななか、俺はただただ絶句していた。


 それも仕方ないだろう。


 なぜなら、


 げげげ激レアモンスター、キタァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


 闇属性のスライム系モンスター『ブラックスライム』は、ラストダンジョンの限られた領域に、1%未満の確率でしか出現しない、SSSR級のモンスターなのだから。


 正直、なぜ同情されたり嘲笑われたりしているのか、サッパリわからない。


 STR筋力(物理スキルの威力に影響する)とINT知性(魔法スキルの威力に影響する)は低いけど、VIT耐久力(物理スキルを受けた際の被ダメージ量に影響する)、MND精神力(魔法スキルを受けた際の被ダメージ量に影響する)、HPヒットポイント(0になると戦闘不能状態になる)が揃って高く、全モンスターのなかでも屈指くっしの耐久性を誇る超優良モンスター――それがブラックスライムだ。


 ファイモンに精通せいつうしている者ならば、サンダービーストを100匹、いや、1000匹出されても、「は? お前、バカにしてんの?」と、ひとりの例外もなく交換を拒否するだろう。


 そのブラックスライムがFランク? 冗談にしても笑えないぞ、ますますわけがわからねぇ。


「残念だったな、マサラニアくん」


 混乱する俺に、リサ先生が、どことなくいたわるような声で話しかけてきた。


「ブラックスライムには攻撃スキルがひとつもない。これは大きなハンデになるだろう」


 リサ先生に指摘されて、ピンときた。


 たしかにリサ先生の言うとおり、ブラックスライムは攻撃スキルを持たない異色なモンスターだ。


 そのうえ、真価を発揮するのは、充分に育ててスキル構成を整えてから。


 一方、サンダービーストは、中盤から役立たずになるが、序盤では大活躍するモンスターだ。


 つまり、この世界とゲームとでは、モンスターの評価が大きく異なるんじゃないか?


 この世界の従魔士は、ブラックスライムの真価に気付けないほど、レベルが低いんじゃないか?


「ふふっ、ふふふふふ……」

「む? どうした、マサラニアくん?」


 思わず笑ってしまった俺に、リサ先生が問いかける。


「笑わずにいられないじゃないっすか。だって、ブラックスライムこいつがFランクなのって、誰も真価を引き出せなかったからなんでしょう?」


 神さまに感謝しないといけないな。


 なにしろ、この世界の従魔士のレベルが低いとしたら、俺のゲーム知識は、常識のはるか上をいくんだから。


 ようするに、知識チート。


 ゲーム知識があれば、この世界では簡単に成り上がれる!


 俺は不敵に笑ってみせた。


ブラックスライムこいつの真価、俺が見せつけてやるっすよ!」


 宣言すると、リサ先生はきょかれたようにポカンとした。


 何度かまばたきをしてから、リサ先生がクスッと笑みを漏らす。


「きみはなかなか面白いな。期待しているよ」


 このひとにファンがつくのも当然と思わせるような、可憐かれんな笑みだった。

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