弱小モンスターが大器晩成型なのは、育成ゲームではよくある話。――2

 ヴァーロンの人々は、15歳になると、創造神からモンスターを1体授かることができる。


 その際に行う儀式が『贈魔の儀』。各地の従魔士学校で行われている伝統行事だ。


「ではこれより、『贈魔の儀』をはじめる」


 俺たちを儀式場まで案内してくれた女教師、リサ・クレインが落ち着いた声で言った。


 リサ先生は、20代半ばとおぼしき美女だ。


 中背ちゅうぜいでスレンダーな体型。

 肌の色はナチュラルホワイト。

 ブラウンのミディアムボブ。

 髪と同じ、ブラウンの瞳に、四角いメガネをかけている。

 表情はとぼしく、目は眠たげな半開き。


 クールな雰囲気が魅力的で、メインキャラでないにもかかわらず、たくさんのファンがついていたキャラだ。


 ちなみにリサ先生は、俺が所属する1―Aの担任になる。


「ケイト・アーディー、前に出なさい」

「はいっ」


 そんなリサ先生に呼ばれて、ひとりの女子生徒が元気よく手を挙げた。


 赤茶色のツインテールに、赤茶の真ん丸な瞳を持った、小柄な少女だ。


 あの子はゲームに登場しなかったな。まあ、生徒全員の設定を作るとなると、とんでもない労力が必要だから、当然か。


 抱いた疑問に対して俺が自己完結するなか、ケイト・アーディーと呼ばれた女子生徒が歩み出た。


「そこにある紋章のなかに入り、創造神に祈りなさい。そうすれば、きみは従魔を授かれる」


 リサ先生が指し示したのは、レンガの床にしるされた、魔法円みたいな紋様もんようだった。


「わかりましたっ」と返事をして、ケイトが紋様に踏み入る。


 ケイトが両手を組んでまぶたを伏せると、紋章がぱあっと光を放った。


 放たれた光は粒子となってケイトの前に集まり、藍色あいいろの羽毛を持つ猛禽もうきんとなる。


「ふむ、『スカイホーク』か」

「わあっ、あたしの従魔だ――っ!」


 リサ先生が頷き、ケイトが満面の笑みを咲かせるなか、


 んんんんんんんん!?


 俺は戸惑っていた。


 おかしいぞ? 『贈魔の儀』では、10種類の属性(火・水・風・土・木・雷・氷・鋼・光・闇)からひとつを選び、選んだ属性に応じて決まった従魔が手に入る。


 しかし、そのなかにスカイホークはいない。どうなっているんだ?


 もしかして、『贈魔の儀』に関してはゲームと異なっているのか? 手に入る従魔は、完全にランダムなのか?


 だとしたら、ちょっと困るなあ。初期モンスターが弱かったら、序盤の進行がキツくなるし。


 うーん、と顎に指を当てながらしばし悩み……


「まあ、いいか」


 俺は開きなおった。


 効率的なレベリング方法は知っているし、弱小モンスターが出てきても、縛りプレイだと思って楽しめばいいんだ。


 俺が腕組みをして、うんうん、と頷いているあいだにも、『贈魔の儀』は着々と進んでいく。


「カール・ヒルベストン」


 次にリサ先生に呼ばれて紋様に向かっていくのは、神経質そうな顔付きをした、小柄でひょろひょろの男子生徒だった。


 灰色のくせっ毛と、青いつり目をした男子生徒、カールは、紋様のなかに入ると、ふてぶてしく腕組みをしてみせる。とてもじゃないが神に祈る格好に見えない。


 それでも紋様は光を放ち、黄色い毛並みを逆立たせた、狼みたいなモンスターを出現させた。


 雷属性のモンスター『サンダービースト』だ。


 微妙なモンスターを引いたなあ。AGI敏捷性(行動機会の数、スキル発動の優先順位、回避率に影響する)はちょっと高いけど、そのほかのステータスが平均を下回り、覚えるスキルも攻撃と自己強化のみ。オマケに進化もしないため、中盤では完全にお払い箱になるモンスターだ。


 もしかしたら、神さまに不敬ふけいな態度をとったバチかもしれないな。


 なんて思っていたら、生徒たちが、わっと歓声を上げた。


「スゲぇ! サンダービーストだ! あいつ、Sランクモンスターを引き当てたぞ!」


 んん?


「いいなあ……あのひと、きっと学年トップになるよ」


 んんんん!?


 俺は思わず、唇をひん曲げてしまった。


 サンダービーストの評価、高すぎません?


「なあ、サンダービーストって、そんなにいいモンスターか?」

「当ったり前だろ」


 隣の男子生徒に尋ねると、「なに言ってんだ、こいつ?」と言いたげな、胡乱うろんな眼差しを向けられた。


「申し分ないステータスに、豊富な攻撃スキル。文句をつけるところがどこにもない、優良モンスターの筆頭ひっとうだろ」


 男子生徒に説明されても、俺の疑問は解けなかった。


 いや、ねぇだろ。優良モンスターなんかじゃ絶対ないって。


 たしかに、序盤に手に入るモンスターのなかでは、サンダービーストのステータスは高いほうだ。


 それでも、ここまでもてはやされるとは思えないけどなあ……。

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