弱小モンスターが大器晩成型なのは、育成ゲームではよくある話。――1

 1週間後。


みなも知ってのとおり、この世界『ヴァーロン』には、人間をおびやかすモンスターが生息しておる」


 レドリア王国の王都『セントリア』にある、『セントリア従魔士学校』の講堂にて、立派りっぱ白髭しろひげたくわえた老年の男性――オーディ・エルドレド学長が、新入生たちに語りかけていた。


「古代の人々にはモンスターに抗うすべがなかったのじゃが、ヴァーロンの創世神が、モンスターを従える力を授けてくださったのじゃ」


「見よ!」と、エルドレド学長が、講堂の天井を指差した。


 そこには、たくさんの光の玉が、フヨフヨと漂っている。


 ウィスプ系のモンスター、『ライトウィスプ』。ヴァーロンの人々の暮らしにおいて、光源として重宝しているモンスターだ。


「いまや、モンスターと人々は敵対するものではない! 共存するものなのじゃ!」


 そして、


「モンスターと人々の架け橋となる存在が従魔士じゃ。ここにおるライトウィスプが、大人しく我々を照らしてくれているのは、『指導系従魔士』が訓練を施しておるからじゃ」


 エルドレド学長は、新入生たちを見渡しながら続ける。


「我がセントリア従魔士学校は、数々の『戦闘系従魔士』を輩出してきた。新入生の皆々みなみなには、一流の『戦闘系従魔士』となり、人々を守る盾として、災厄を払うつるぎとして、立派に活躍してくれることを願っておる」


 エルドレド学長が両腕を広げた。


「皆の学校生活が有意義なものになることを期待しよう!」


 エルドレド学長の激励げきれいに、講堂が拍手に包まれる。


 そんななか、


「ふわぁ~~」


 新入生のひとりである俺は、大あくびをしていた。


 プレイヤーはセントリア従魔士学校の生徒となり、一流の従魔士となるべく、学業やクエストにはげむ――それがファイモンのメインストーリーだ。


 俺は何度となくファイモンをプレイしているから、エルドレド学長の話は聞き飽きていた。ぶっちゃけ、スキップボタンがどこかにないか、無意識に探してしまったくらいだ。


「まあ、ゲームとの違いがないってわかったから、よかったか」


 ふぅ、と息をつき、俺は前向きに捉えることにした。


 ゲームと大きな違いがあれば、俺の知識は無用むよう長物ちょうぶつとなる。エルドレド学長の話がゲームと同じだったのは、喜ぶべきことだろう。


「それにしても――」


 呟いて、俺はメニュー画面を開いた。




 ロッド・マサラニア

  称号:マスタートレーナー

  従魔:0匹

  アイテム:なし




 見慣れた項目が並ぶなか、見慣れない項目の存在に、俺は首をかしげる。


「『称号』と『マスタートレーナー』。なんなんだろうなあ、これ」


 はじめてメニュー画面を開いたときに見つけた項目だ。ゲームでは、こんな項目はなかった。


 訝しみながら、『マスタートレーナー』の文字をタップしてみる。


 なにも起こらない。


『従魔』を選択したら、使役している従魔と、そのステータスが。

『アイテム』を選択したら、腰元の『不思議なバッグ』に収められているアイテムが表示される。


 しかし、『マスタートレーナー』の項目は、何度タップしてもなんの情報も表示されない。


 本当に、これはなんなのだろう?


「よくわからないから、一先ずは保留だな」


 諦めてメニュー画面を閉じると、エルドレド学長が最後に付け加えた。


「新入生の皆には、『贈魔ぞうま』のために儀式場へ移動してもらう」


 エルドレド学長の言葉を耳にして、俺は笑みを浮かべずにいられなかった。


『贈魔の儀』とは、初期モンスターの獲得イベント。


 つまり、


 いよいよ俺は、従魔を手に入れられるんだ!

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