第1章 ── 第6話
次の日から、マリソリアは外に冒険に出るための訓練を開始した。
もちろんゲーリアのサポートを受けながらだ。
初日にマリソリアは、初めて人型になった頃とは段違いの戦闘力が身についた事を感じた。
何がどうなっているかはサッパリ解らなかったが、
そして盾も巧みに操れる事に気がついた。
「この武装が我に合っておる」
初日の訓練後半には、そういって鉄のブレスト・プレート、小さめのラウンド・シールド、鉄のガントレットとグリーブ、そして小剣という出で立ちになった。
それを見ていたゲーリアは、ふむと腕を組んで顎に手をやった。
「クラスが
「
「うん。午前とは全然動きも違うし、装備も冒険者の
ゲーリアはどこからか白い石を取り出してマリソリアに渡してきた。
「これは何じゃ?」
「これ、
「何をする石なのじゃ?」
「これはね。人間の職業や能力、スキルなんかを数字にして見せてくれる便利な道具なんだよ」
「ほえー。じゃとすると、我の能力も見れるのかや!?」
「そうだよ。
この石では、ボク以外では基本的なステータスしか見られないけども、見る分には何の問題もないよ」
マリソリアは石の表面をあっちこっち見てみるが、何も書かれていない。
「真っ白じゃが?」
「ああ、ステータスを見られるように念じるだけだよ。貸してごらん」
マリソリアがゲーリアに石を返すと、彼は石をジッと見つめる。
すると、ゲーリアの前に何か透明な板のようなものが現れる。
「お? 何か出たのじゃ!」
マリソリアは突然現れた板からゲーリアを透かしてみるが、透明な板しか存在せず、やはり何も書かれていないのが確認できた。
「何も書かれてないのじゃが?」
「あはは。裏からでは何も見えないよ。こっちへ着てこらん」
マリソリアは透明な板とゲーリアの間に小さい身体をねじ込んだ。
そして板の方に目を向けると……
ゲーリア・ニルズヘルグ
クラス:
HP:500
MP:1000
SP:850
筋力:45
知力:1000
精神:85
直感:80
器用:60
敏捷:56
耐久:50
と表示されていた。
それを見たマリソリアは目を輝かせた。
「おおう。兄者はレベル五二じゃ!
高いのかや?」
「うーん。外の世界の冒険者は、高い奴でも三〇くらいと聞いたね。
もっと高い奴もいるみたいだけど、四〇レベルを超えるか超えないかって所みたい。
ボクの知り合いは七五レベルって化け物だけど、あれは亜神クラスだよ」
「亜神……神とやらはレベルが高いのじゃな?」
「そうだね。神界の神はレベル一〇〇とかいるそうだよ」
「ほえー。想像もつかんのじゃ」
ゲーリアが言うには、四〇を超えた冒険者は馬鹿みたいに強いらしく、敵に回すと厄介だそうだ。
ただ、本来の姿であれば敵ではないと断言した。
「生物本来の基礎能力が違うんだよ。
ボクらは生まれた時からレベルが四〇超えてるし、人間とか他の生物の追従は許さない。
そうカリスに作られた存在なんだよ」
「反則じゃな」
「うん、反則だ。だからこそ、神々に睨まれないようにひっそりと暮らしているんだ」
竜が圧倒的な力を持つといっても、個体数は神々にくらべて微々たるものだ。
神は何百、何千といる。
それに対して古代竜は全一族を合わせても百匹程度しかいない。
下等な竜種も幾らか存在しているが、高レベル冒険者でも何とか倒せるレベルで、古代竜種たちは同族と認めていない。
変わり種としては、
こういった、古代竜といえないドラゴンたちも古代竜以上に生息数は少ない。
さっきの話に出てきたように冒険者に狩られるからだ。
長く生き残ることができたとしても数千年程度で寿命がくる。
生物としてのドラゴン種は何とも頼りない存在と言えよう。
その点、古代竜に基本的に寿命はないと言っていい。
病気や事故で死んだ古代竜は何体かいたが、この地に古代竜が現れて数万年も経っているが寿命で死んだモノはいない。
古代竜の問題点は出生率の低さだ。
初代ニーズヘッグが地底のマグマ湖に落ちて死んでから、数えてもニーズヘッグ氏族で子供が生まれた事例は一〇匹を超えない。
ニルズヘルグ一族は、ニーズヘッグ氏族内第二位に位置するが、氏族の中で一番家族が多い。
古代竜の家族としては最大勢力なのだ。
雌竜の誕生は一族の繁栄に直結する。
マリソリアが生まれた時、祖父竜の喜びようが大きかったのがよく分かる。
「そういう話はもういいのじゃ。
我のステータスというのを見せるのじゃ!」
ゲーリアは苦笑いしつつ、
「今さっきのステータス画面が出るように念じるんだ」
「解ったのじゃ!」
マリソリアはゲーリアがしたように石を握り念じてみた。
「おお! 出たぞ!」
マリソリア・ニルズヘルグ
クラス:
HP:429
MP:150
SP:264
筋力:30
知力:15
精神:22
直感:15
器用:22
敏捷:20
耐久:33
ワクワクしながらマリソリアは表示されたステータスを見る。
そしてすぐに眉間に皺を刻む。
「なんじゃこれは。レベル一じゃ」
ゲーリアは苦笑してしまう。
「そりゃ最初はレベル一だよ。
ボクだって最初はレベル一の
あ、ボクにも見られるように念じて」
マリソリアは言われたとおりに念じると、ゲーリアがステータス画面を覗き込んでくる。
「なるほど。
ゲーリアはこの世界のクラス・システムについて知っている事を教えてくれた。
通常、人類種は一般人から始まる。
それぞれの個体の特技を発揮していくうちにクラスが変化していくらしい。
職人や商人という人類種なども最初は一般人だという。
そして。それぞれの職能に見合った経験を積む事でクラスが勝手に決まるのだそうだ。
「
「いやー……もう無理だろうね。既に
「何でじゃ!?」
「何でだって言われても……世界の法則だからね……」
プンプンと怒るマリソリアをゲーリアは、必死に
だが、マリソリアは直ぐに機嫌を治す。
やっぱり魔法は嫌いだし、前に出て戦う事は嫌いじゃない。
「それで
「基本的に前衛で戦うらしいね。ボクは後ろから魔法を打つ方が好きだけど」
「ふむ……守るのじゃな? となるとトリ・エンティルの仲間のドワーフとかいう奴と同じじゃな!」
マリソリアは想像する。
自分が華麗に仲間を守り、トリ・エンティルが敵を屠る場面を。
「守るのもカッコいい気がしてきたのじゃ」
「そうだね。仲間を守るのはボクもカッコいいと思う。
前衛盾役がいなければ、魔法使いも弓使いも活躍はできない。
盾役がいてこそなんだよ」
ゲーリアにそう言われて、マリソリアは自分の職業が誇らしくて仕方なくなる。
「我は守るのじゃ! 全てを守る
「いいね。マリソリアが一流の冒険者になったら、ボクも冒険に連れて行ってもらおうかな」
「どんと来い! 兄者は我が守ってやるのじゃ!」
厳しい訓練が連日続いた。
基本的には小さい生き物との模擬戦が主な訓練方法だが、兄竜のゲーリアが杖で相手してくれる事もある。
魔法職だというのに、基礎能力だけでマリソリアは子供のようにあしらわれた。
やはりレベル差というものは決定的なアドバンテージらしい。
マリソリアは毎日、訓練の終わりに兄竜の
それでも三日前に漸くレベル四に到達した。
「どうじゃ? そろそろ冒険に出られるかや?」
マリソリアは兄竜に胸を張って得意げに聞いているが、ゲーリアはあまり気が進まないといった表情だ。
「そうだね……あとレベルを一つ上げられたら外に出ても何とかなるかな」
「あと一つかや? いつになるか判らぬのう……」
マリソリアがレベル五に上がったのは、そんなやり取りの一週間後だった。
「上がった! レベル五じゃ!」
ステータス画面を見ながらマリソリアは飛び上がって喜びを表現する。
ゲーリアはステータス画面を見て呆気にとられた顔をしている。
「兄者、どうしたのじゃ?」
「いや、何だろうコレは……ボクの知ってるクラスの法則とは違う感じが……」
マリソリアも注意深くステータス画面を見る。
「クラスが『
我は
「『
『
ゲーリアは納得いかない顔だったが、マリソリアは満足げにニンマリ笑う。
「それはもっと守れるという事じゃろ!?
何が問題じゃというのか!」
「それはそうだけど」
ゲーリアは自分の妹ながら規格外な才能に嬉しいやら羨ましいやら複雑な気持ちになる。
「よし!
兄者よ。明日の朝、冒険に出発するぞ!」
「え!? もう行くのかい!?」
「早いに越したことはないじゃろ?」
「そういうもんかな? そういえば、西の方の言葉に『善は急げ』って言葉があるらしいけど……」
「兄者は物知りじゃな。
その言葉通り、我は明日出発じゃ!」
マリソリアは訓練室から飛び出すと自室へと引き上げる。
以前と違って、レベル・アップ効果で、長い道のりも苦にならなかった。
出発できる喜びで、訓練の疲れもない。
ワクワクするのじゃ。
明日から我も冒険者になるのじゃから!
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