作品について語ってみる・3

 今回は長編三作目の「桜の下で」です。


 この話は本当は短編で終わりのつもりだったのですが、あまりにも救いがないので急遽長編にプロットを組み直したという、これまでとは違った話の作り方でした。そのためすごく苦労しました。


 この話を考えたのは、異世界転生で感じた疑問からでした。前世の記憶を思い出した時、その人は前世の記憶に引きずられるか、それとも統合されるのか、別の意識になるのか。


 ただ、輪廻転生という仏教の概念が私の中に強くあったので、舞台は現代日本にしました。


 そして、この作品には私自身の経験で感じた思いが目一杯詰まっています。


 差別や、そこからの恨み、異端である自分の苦しみ、普通になりたいという願い……

 実は一番感情移入しながら書いた作品です。


 ストーリーを簡単に言うと、大切な人を殺されたことで鬼になってしまった男と、その生まれ変わりの女の子の恋物語です。


 主人公の千恵は、桜花という女性の生まれ変わりで、幽霊や精霊といった他の人には見えない世界が見えています。それを子どもの頃に周囲の人に言って気味悪がられたりして、人と関わることをやめてしまいます。


 ADHDの私の見ている世界と、他の人の見ている世界が違うと知ったことから、この設定ができました。


 蘇芳は、戦国時代に武家に生まれました。しかし、異人の血が色濃く外見に出ていたため、殺されるところでした。それを不憫に思った家臣に山に捨てられ、桜花という桜の精霊と人間のハーフの女性に育てられました。


 化け物扱いされた挙句、育ててくれた桜花を村人たちに殺され、村人たちに復讐を果たし、鬼に変じてしまいました。


 私自身、障害を持っていることで、様々な差別や偏見の目に晒されてきました。そのせいで私の大切な人たちが傷つけられたこともあります。それがどうしても許せなかったので、物語に落とし込んで昇華させることにしました。


 小夜は、一番私に性格が似ています。千恵と同じ目を持ちながらも家族に普通でいることを強要されます。だから理解してくれる家族がいる千恵が妬ましくて嫌がらせをするように周囲を煽っていました。

 そして自分の先祖であり、鬼に変じた蒼が好きで、依存していきます。


 蒼は、蘇芳が村人たちを殺したことで、その村人の生き残りに復讐に巻き込まれ、愛する人を殺されました。


 成実は、わかりやすいいじめっ子キャラですが、その裏には前世の記憶という悲しみを抱えています。


 千恵と成実はそれぞれ前世があります。千恵は蘇芳の育ての母で恋人だった桜花の生まれ変わりで、成実は蘇芳に殺された村人の家族の生まれ変わりです。二人の違いは、千恵の前世である桜花は千恵の意識下で静かに眠り、成実の前世の記憶は憎しみのあまり自我が強くなりすぎて成実と完全に混ざって混乱するというところです。前世と現世では人格が違う。そのため人格統合が行われるかどうかということを考えた結果、こうなりました。


 この作品のテーマは「差別」と「復讐の連鎖」です。


 私は復讐自体を否定はしません。ですが、相手が罪の意識を感じないままに復讐をしたところで、そこに意味を見出せるのだろうかという疑問があります。


 それは、死後の世界が存在するかわからないからです。死んだら「無」なのかもしれないと思うと、罪を犯した人はもう何も感じなくなってしまう。そして大切な人を奪われて遺された人は痛みを抱えながらも生きなければならないのか。それはやっぱり理不尽に思います。


 奪った人にも、奪われた人と同じくらいに奪った命の重さを考えて欲しいと思いました。

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