作品について語ってみる・4

 今回は長編4作目の「悲しい嘘」です。

 好きなのに好きだと言えない複雑な女心を描きたいと思ったのですが、設定を考えれば考えるほど、ヒューマンドラマに近づいていった作品でもあります。初めて三十万文字を書き上げたので、しばらく長編を書きたくないとも思ってしまいました。


 簡単にいうと、名門伯爵令嬢である主人公ユーリが、子爵家次期当主であるコンラートとすれ違いながらも結婚する話です。ただ、コンラートには結婚前に恋人同士だと噂のある令嬢がいて、ユーリは好きだと言えない感じです。


 この話では女性たちが主人公みたいな感じになりました。ユーリはもちろん、コンラートの恋人だと噂のあったニーナ、ニーナの母、コンラートの母、それぞれに背景があります。


 登場人物ですが、まず主人公のユーリ。

 彼女は、お人好しの父親と、愛情深い母、兄に囲まれて育ちました。しかし、思春期の頃に母を亡くし、失意のため仕事を放棄し、借金を重ねる父親、そんな父親を支えながらも伯爵家を守ろうと奮闘する兄に迷惑をかけたくないと、自分の感情を押し殺すようになります。


 コンラートは、母が育児放棄、父は仕事人間という機能不全家族で育ったアダルトチルドレンです。そのため、ユーリが好きなのに、素直に好きと言えないトラウマを抱えた人でした。


 そして、ニーナ。彼女はコンラートの恋人だと噂がありましたが、実はコンラートの母親違いの妹です。ですが彼女はその事実を知らずに実兄のコンラートに恋心を抱いてしまいます。ただ、別の男性と恋をして、その想いは違った形で昇華されます。


 前半は、この三人の三角関係を描きましたが、コンラートとニーナの関係がコンラートの母に明かされたことで、今度は親世代の話や、コンラートの心の闇、そこから家族の絆の再生に変わっていきます。


 ユーリが育った温かい家庭の絆が、やがてコンラートやコンラートの家族の絆の再生に繋がっていく。そんな話を描きたくてこういう構成にしました。


 愛着障害はそれにかかった年月の分だけ、回復に時間がかかると言われています。それだけ愛情を感じないと回復は難しいのかもしれません。


 だから、コンラートやコンラートの母であるアイリーンが、それだけの愛情を感じて幸せになって欲しいと願いながら書きました。


 テーマは「機能不全家族」と「恋から愛への移り変わり」です。


 まだ相手の心に踏み込めず足踏みしていた状態から、相手を知り寄り添いたいと願う気持ちへの移行。そんな過程を描けていればいいなあと思います。


 そして、この作品でファンアートを二人の方からいただいたことが、すごく嬉しかったです。


 考えてみれば、様々な作品にレビューまでいただいていたのに、ファンアートまでいただけるとは思っていませんでした。


 読んでいただけたこと、感想をいただけたこと、レビューをいただけたこと、全てがありがたいなあと再確認した作品でもありました。


 また、スピンオフを初めて書いたのもこの作品でした。そちらの主人公はコンラートの母であるアイリーンですが、大人の恋愛ということでR18にしました。半分が鬱展開という重い話でしたが、書けてよかったと思います。

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