第316話 カズキ、空間魔法を使って家を創る その2

「カズキ。いよいよやるのね?」

「はい、エルザさ」

「お姉ちゃん」

「・・・・・・お姉ちゃん」


 【ディメンジョン・ポスト】が完成した翌日。いつものやり取りをエルザとしたカズキは、本来の目的である、この世界とは別の空間に居住スペースを創る魔法を使おうとしていた。

 自分の我侭で砦を造らせた自覚があるエルザも、流石に野営の度に巨大な建造物を造らせるのは効率が悪いと思っていたのか、カズキの考えを支持。居住スペースが出来た後に必要な家具を、最近は騎士団の治療が少なくて暇になったフローネと発注したり、ソフィアに譲り受けるなどの交渉を行った。


「体調は大丈夫ですか?」

「はい。昨日は早めに休んだので万全です」


 何故か手にペンとノートを持っているフローネの問いに、カズキは笑みを浮かべて答える。フローネの隣に、ナンシーとクレアがちょこんとお座りしているのが何とも愛くるしかったからだ。


「虚空を結ぶ叡智より躍動せし力を以て、異界の深淵に踏み入れ、幻想の鍵を握る」


 カズキがゆっくりと詠唱を始めると、魔力が物凄い勢いで消費され始めた。その消費量は【ディメンジョン・ポスト】の習熟中の比ではなく、この世界でも有数の魔力量を誇るエルザから見ても、無限にあるのではないかと思えていたカズキの魔力がみるみる減っていくのがわかる程だ。


「我が意思を宇宙の法則に刻み、空間の糸を操り・・・・・・」

「カズキさんっ!」


 急激に減っていく魔力の影響か、カズキの顔色がみるみる悪くなっていくのを見て、フローネが制止しようとする。


「駄目よ、フローネ!」


 それを間一髪で阻止したのは、同じように様子を見ていたエルザだった。

 彼女は事前にカズキと話をした際、詠唱が何らかの理由で途切れた場合、行き場を失った魔力が暴発する危険があると聞いていたのだ。

 聞けばこれまでにも何度か詠唱をとちって、小規模の暴発を経験したという(その際は、自分で防いで事なきを得た)言葉には呆れるしかなかったが、同時にエルザは嬉しくもあった。

 猫の事以外は控えめで従順なカズキが今の環境に慣れ、少しづつ我と言うべきものを出すようになったという証拠だからだ。

 本来は制止する側に回る筈のエルザが今回の事に積極的に関わっているのには、そういう理由もあったのである。


「・・・・・・遥か遠き次元より、我が意志を宿し、新たなる領域を開拓せん。我が魔法の名は【次元ハウス+ニャン】!」」


 結局、カズキは鋼の意志で詠唱を進め、遂には魔法を完成させる事に成功。


「うっ・・・・・・」

「カズキ!」

「カズキさんっ!」

「「みぃあ!」」


 だが無理をした代償として魔力枯渇を引き起こし、自分の成果を見る事もなく意識を手放したのであった。




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 お読みいただき有難うございます。リワード狙いで明日も投稿いたします。

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