第291話 冒険者は見た

「おい! 丘にワイバーンがいるぞ!」

「なんだとっ!? 早すぎる!」


 ギルドで緊急依頼を受けた冒険者たちは、ワイバーンより早く丘に辿り着く為、全速力で馬を駆っていた。

 ギルドマスターが郊外の丘を迎撃地点に指定したのは、ランスリードの街に被害が出ないように考えた結果だと、冒険者たちはわかっていたからだ。

 プライドが高いからなのか、ワイバーンは自分にちょっかいをかけて来た者を許さないという習性を持っている。今回はそれを逆手に取り、ワイバーンを丘に釘付けにする事で、街から意識を逸らすのが真の目的だった。

 その証拠に、この依頼で怪我をしても。『聖女』エルザの治癒魔法を無償で受けられるという文言が入っている。

 要は、死なない程度にワイバーンの注意を引きつける事で時間を稼ぎ、夜になれば戻ってくる、ランスリードの王族の誰かを待つというのが今回の依頼の趣旨なのだった。


「それで!? ワイバーンは何をしてるんだ!?」

「相手は分からないが、何かと戦っているみたいだ!」


 今回依頼を受けた中で唯一のAランクパーティのアーチャーが、同じパーティの戦士にしてリーダーに答えたその時、それは起こった。

 突然、丘の頂上から凄まじい魔力が放たれたかと思うと、天に向かって氷雪が吹き荒れたのだ。


「・・・・・・何があった!? 魔法か!?」


 凄まじい魔力に中てられ、恐怖から脚を止めた馬を無意識に宥めながら、リーダーが仲間のアーチャーを振り返ると、彼は呆然とした表情で「マジか・・・・・・」と呟いている。ならばと仲間の魔法使いを見てみると、アーチャー以上に呆然としていた。

 

「どうする? 先へ進むか?」


 残った仲間に声を掛けられ、リーダーは考える。仲間のアーチャーや魔法使い、そして馬の様子から、丘にはワイバーン以上に脅威な存在がいる可能性が高いからだ。


「おい。アレを見ろ!」


 だがリーダーが結論を出す前に事態は動いた。

 仲間の声に反射的に丘の方を見ると、ワイバーンがこちらへ向かってきていたのだ。


「っ!」


 最早激突は避けられないと、その場で身構える冒険者たち。だがワイバーンが近づくにつれて、奇妙な事に気付く。なんとワイバーンは羽を広げた体勢のまま、ピクリとも動いていないのに空を飛んでいたのだ。


「どうなってんだ?」


 流石におかしいと思ったリーダーは、警戒は解かないままワイバーンに自ら近寄っていく。その結果わかったのは、ワイバーンは氷像になっており、どう見ても死んでいる事。そして、その真下に猫を抱いた少年が歩いている事だった。


「こんにちはー」

「あ、ああ、こんにちは」


 頭上にいるワイバーンなどいないかのように振舞う少年に異質なものを感じたリーダーは、思いがけず普通の挨拶をされた事に驚く。


「皆さんは魔物退治の依頼を受けた冒険者さんですか?」

「あ、ああ。ワイバーンが王都に迫っているという連絡が入ってな。その前に街の外で迎撃しようとここまで来たんだが・・・・・・。上に浮かんでいるは、君が倒したのかな?」

「はい! 丘の上にいたらいきなり襲われたので! あ、もしかしてがワイバーンなんですか!? だとすると、依頼を横取りした事に!?」

「いや、それは気にしなくていい。時間を稼ぐというのが依頼の趣旨だったからな。ワイバーンを討伐したのは君なのだから、ソレは君の物だ。ギルドに持っていけば高値で売れるだろう」

「そうなんですね! それならお世話になっている人たちの所へ持っていこうと思います! それじゃあ!」

「・・・・・・」


 去っていく少年の後ろ姿を見てリーダーは思った。

 なんの根拠もないが、邪神はきっとあの少年によって倒されるのだろうと。

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