第290話 カズキ、ワイバーンを氷漬けにする

「うわぁ・・・・・・」


 間近まで迫ったドラゴン(仮)を見たカズキは、無意識にナンシーを抱きあげると、ゆっくりと降下してくる魔物を見上げた。

 始めて見る魔物が体長10メートルを超えていたら、普通は恐怖でどうにかなってしまいそうなものだ。なのにその声色には恐怖の響きが欠片も感じられない。

 事実、カズキはドラゴン(仮)の威容を見ても、全くと言っていい程緊張していなかった。それどころか、この魔物が何という名前なのか知るにはどうすればいいのかを考えていた。


「GRUAAAAAAA!」


 そんなカズキの不穏な気配を悟ったのか、ドラゴン(仮)は急に降下速度を速めると、その勢いのまま長い尻尾を振り下ろしてきた。


「おっと」


 カズキはナンシーを抱いたまま、尻尾をヒョイッと躱す。すると目標を失った尻尾は地面を叩き、土砂を激しく舞い上がらせた。


「うわっ」


 視界が塞がれることを嫌ったカズキは、土砂を躱すべく大きく後方に跳躍する。

 だが、ドラゴン(仮)の攻撃はそれだけでは終わらなかった。今度は槍の穂先の様に鋭い尻尾の先端を向けると、後退したカズキを突き刺そうとしてきたのだ。


「えぇ・・・・・・。なんか尻尾の先端から身体に悪そうな液体が滴ってるよ」


 高速で追い縋ってくる尻尾を、今度は横に跳躍して躱すカズキ。その際、液体が飛び散った先にある、地面に生えていた雑草を見ると、グズグズに溶けていた。


「もしかして毒? こんなのが体に掛かったら悲惨な事になっちゃうよ・・・・・」


 その光景を想像して震えたカズキは、自分とナンシーの身を守るべく、覚えてはいるが、使った事のない攻撃魔法を使う決意をした。


「とは言っても火だと山火事になっちゃうし、風だと毒が辺りに飛び散って、これまた大変な事になりそうだしなぁ。そうなると土か水なんだけど。いや待てよ。尻尾から毒が出てるって事は、血液もその可能性があるんじゃ?」


 実際にはワイバーンの血液に毒なんてないのだが、カズキにそんな事が分かる筈もない。


「そうなると冷気で攻撃するのが一番かな? 丁度、【ブリザード】って魔法があるし。何発か撃てば倒せるでしょ」


 一瞬でそう考えたカズキは、再び襲い来る尻尾に向け、初めての攻撃魔法を使った。


「GYAAAAAAAA!」

「えっ? 倒しちゃった!?」


 その結果は想像以上のものだった。精々、尻尾の先端が凍るくらいだろうと思っていたのに、カズキから放たれた冷気はそれにとどまらず、その先にあった本体まで軽々と覆いつくし、一瞬の後には巨大な氷像が出来上がっていたのである。

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