第289話 ワイバーン襲来

 その日、ランスリードの冒険者ギルドは蜂の巣をつついたような大騒ぎだった。

 邪神の影響により狂暴化した魔物を退治する為、王都郊外に出陣していた騎士団から、ワイバーンが一匹、ランスリードの街へ向かって飛び去ったとの情報が齎されたからだ。

 平常時ならランスリードの王城にはジュリアン、ソフィア、エルザ、そしてクリスという単独でAランクの魔物を倒せる猛者がいるので、ここまでの騒ぎにはならない。だが間の悪い事に、三人は負傷した騎士団の穴を埋めるべく、他の戦場へと出陣中。

 既に魔物の討伐は終わっているが、帰ってくるのは早くても夜になるという話なため、ワイバーンの襲来には間に合わないという話だった。

 残るのはエルザだけなのだが、彼女は毎日の様に運ばれてくる怪我人の治療のため、魔力が心許ない状態だという。そこで白羽の矢が立ったのが、冒険者ギルドだったのだ。

 

「緊急依頼だ! 内容はこの街へと飛来してくるワイバーンの討伐! 参加資格はBランク以上で、報酬は一人当たり5000万! 見事討伐すれば、更に一人当たり一億! それに加え、この依頼で怪我をしても、無条件で『聖女』の治癒を受けられるぞ!」

「「「「うおおおおおお!」」」」


 ギルドマスターの提示した条件に、その場にいた有資格者の冒険者たちが雄叫びをあげる。

 それもその筈、通常のワイバーン討伐の依頼は、成功報酬で1000万円。それが今回は参加するだけで5000万円貰える上に、討伐出来ればプラス1億円である。

 更に怪我をしても、滅多に受ける事の出来ないエルザの治療が無料で受けられるというのだから、これが如何に破格な条件かわかるだろう。


「ワイバーンがこの街に到達するまで最速で凡そ2時間だ! 依頼を受けてくれる者には馬を貸し与える! 予想迎撃地点はだ! 準備できたパーティから出発してくれ!」

「「「「おう!」」」」


 冒険者たちは力強く返事をすると、素早く準備を整えて出発していった。




「ん? あれはなんだろう?」

「みぃあ・・・・・・」


 ワイバーン襲撃の報がギルドに齎されたのとほぼ同時刻。ナンシーと一緒に丘を登ったカズキは辿り着いた頂上に布のシートを広げ、その上に寝っ転がって空を見上げていた。

 食事が終わったところで眠気が来たのか、うとうとしていたナンシーを柔らかいタオルの上に寝かせ、その寝顔を堪能していたら自分も眠くなってきたからだ。

 

「鳥? それにしては大きすぎる気がする。それに、こっちに近付いてきてるような・・・・・・」


 位置は変わらないのに、その姿だけがどんどん大きくなるのを見て不安になったカズキは、魔法を使って鳥? の姿を視界に捉えた。

 余談だが、カズキは攻撃魔法こそ使った事は無いが、他の魔法は人目に付かないところでちょくちょく使っている。彼に期待されているのは戦う為の魔法なので、それ以外だったら問題ないと思っているからだ。


「うーん。鳥というよりは爬虫類っぽいかなぁ? そうすると思い付くのはドラゴンなんだけど。でもなんか違うんだよなぁ。あっ、フローネさんが持っていた本になら載ってるのかな?」


 魔法を使ってドラゴン(仮)の細部まで観察していたカズキは、そこで急な肌寒さを感じる。


「 ・・・・・・あれ? なんか風が強くなって来たぞ。それに急に薄暗くなってきたな。もしかして雨が降る? それなら早めに帰らないとっ!」


 初めての外出だったナンシーが心配になったカズキは、雨が降る前に下山しようと魔法でのドラゴン(仮)の観察を止める。

 そして、雨雲がどれ位近付いているのか確認しようと空を見上げたところで、急に薄暗くなった原因を知った。

 そう、カズキの観察対象だったドラゴン(仮)が、いつの間にか間近に迫っていたのである。

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