第288話 カズキ、運命の日を迎える

 魔法適性を調べたカズキだったが、魔法を扱うようにする為の訓練は始まらなかった。

 邪神が復活した影響で各地の魔物が活性化し、ついには世界最強と言われているランスリード騎士団にも重傷者が多数出たので、その穴を埋めるべくソフィア、ジュリアン、クリス。更には国王であるセバスチャンまでもが出陣するなど、ランスリードの総力を挙げた戦いになってきたためだ。

 そうなると真っ先に皺寄せがいくのが、まだ何の力も持たない(と思われている)カズキへの教育という事になってしまうのだった。


「戦況が落ち着いてきたから、明日から本格的に教育が始まる事になったわ。とはいえ、何時また同じような状況になるか分からないから、相当な詰め込み教育になると思う。だから今日は休養日にして、明日からの教育に備えましょうか」


 後方支援の為に城に残っていたエルザがそう言ったのは、カズキが魔法適性を調べてから凡そ一か月後の事。 


「あ、外に出たいのなら、それも許可するわ。今のあなたなら、ごろつき程度には負けないでしょうし」


 カズキはその間、自分の身を守る事くらいは出来るようにとエルザから剣術を習っていたのだが、常軌を逸する速度でそれらの技術を吸収してしまった為、単独行動も問題ないと判断されたのだった。


「それなら郊外にある丘に行ってみたいです。何度か訓練で走っていますが、ちゃんと景色を見た事はなかったので」

「いいんじゃないかしら? あそこには魔物も出ないし、今日は良く晴れてるから遠くまで見渡せると思うわ」


 エルザはそう言って、『次元ポスト』から木製の水筒と、重箱のような物を取り出すとカズキに手渡す。カズキが出かけるだろうと思い、予め用意していたのだ。


「じゃあこれを持って行って。あなたとナンシーのお昼ごはんが入っているから」

「わあ! 有難うございます、エルザさん!」

「お姉ちゃん」

「え、エルザお姉ちゃん」

「よろしい。じゃあ気をつけて行ってらっしゃい」

「はい! 行ってきます!」


 何故お姉ちゃん呼びを強要されるのか未だに分からぬままカズキが訂正すると、エルザはにっこり笑ってカズキを送り出す。

 カズキの実力が世に知られる時が、間近まで迫っていた。

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