第292話 カズキ、ワイバーンを城に持ち帰る
カズキがワイバーンを持ち帰った事で、街は勿論、城の中も大騒ぎになった。
幸い、カズキワイバーンを倒した事はいち早くギルドや城へ知らされたのでパニックが起こる事はなかったが、王都の住民の大半はワイバーンなんて巨大な魔物を見た事などない。その為、半ばお祭り騒ぎのような喧騒の中を城へと向かったカズキだったが、殆どの人はワイバーンを見る事に夢中で、彼を気に留める者はいなかった。
「「カズキ!」」
城に帰ったカズキを真っ先に迎えたのは、エルザとアルフレッドだった。
二人共笑顔だったがエルザは安堵の表情。そしてアルフレッドは歓喜の表情である。
「ワイバーンがこの街に向かっていると聞いて心配したのよ? 今のあなたなら十分に逃げ切れる力はあると思ったから大丈夫だとは思っていたけど・・・・・・。まさか倒した挙句にそっくりそのまま持ってくるなんてね。いつから魔法を使えるようになったの?」
焦って冒険者ギルドに大盤振る舞いの依頼を出した事はおくびにも出さずに、エルザがカズキの顔を覗き込む。
「魔法を使えるようになったのは適性を確認した日です。寝て起きたら使えるようになってました。攻撃魔法を使ったのは今日が初めてですけど・・・・・・」
エルザの整った顔が間近に迫った事に赤面したカズキは、ナンシーを抱いたまま後退る。
「別に怒るつもりはないから安心しなさい。今回はそれに救われたのだから。・・・・・・気になるのは何故教わっていない魔法を使えるのかよ」
「転生特典とか?」
「転生特典? 言葉の意味はなんとなく分かるけど・・・・・・。あなた死んでないわよね?」
「あ、そっか。じゃあ召喚されるときに、神様から力を与えられたとか?」
「それじゃねえか? 初代勇者が召喚された時に、『死に戻り』の能力を与えられたっていう例もある事だしよ」
カズキとエルザの会話にアルフレッドが割り込む。このまま話を続けさせると、いつまで経ってもワイバーンを調理出来ないと思ったからだ。
「ああ、成程」
アルフレッドの話は筋が通っていたため、直ぐにエルザに受け入れられた。その為、カズキが使う魔法が実は古代魔法だという事が分かったのは、邪神討伐の後になったのである。
「よし! 次はワイバーンだ! そいつを丸ごと持ち帰ったって事は、俺に調理させるためと思って良いんだよな!?」
目論み通りカズキの魔法の話を終わらせたアルフレッドは、早速とばかりにワイバーンの話に移る。
「調理? 食べられるんですか!?」
「応よ! ワイバーンと言えば超高級食材だ! 何しろ倒してから一日経つと、急速に腐敗が進行して食えなくなるからな! それを防ぐために冷凍にするんだが、丸ごと一匹冷凍するのはジュリアンでも無理だ! 女神様様だな!」
「そうですね!」
「フローネさん。いつの間に・・・・・・」
半信半疑だったカズキの耳に、フローネの声が聞こえてくる。ここ最近の付き合いで彼女がグルメ(表現控えめ)だという事が分かっているので、アルフレッドの言葉が嘘ではない事が判明したのだった。
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