第220話 ダンジョンを私物化する方法

「ここがパラダイスか・・・・・・」


 目的のオリハルコンダンジョンに着き、躊躇うことなく突入したカズキは、先程捕獲した体長100メートル級のドラゴンがそこかしこを徘徊しているのを見て、嬉しそうな顔をした。

 先程のデカいトカゲ(あくまでもドラゴンとは認めない方針)の様に、色々な種類のドラゴンがいたのだから、そりゃーテンションも上がるってものである。


「ミャッ! ニャー! ナウー!」


 そして、カズキ以上にテンションが高いのがクレアだ。

 彼女はドラゴンを目にした瞬間から、『あのドラゴンの脚はローストドラゴンで』とか、『あのドラゴンは脳みそしか食べる所はない』だとか、『あのドラゴンは味は普通だが、ドラゴン節にすればいい出汁が出る』などと、片っ端から鑑定してはカズキとアルフレッドにアドバイス? を送っているのである。

 最近のクレアは異世界食材を鑑定する関係で、アルフレッドの傍にいる事が多かったせいなのか、様々な調理法を覚えてしまったようで、アルフレッドと料理談義を行うレベルになっているのだ。

 不思議な事に、料理関係の話をする時だけは、クレアの言葉をアルフレッドが理解できるらしい。


「「「「・・・・・・」」」」


 対照的にテンションが低いのは、言わずと知れた『朱き光』のメンバー達だ。つい十数分前に本当の絶望を知ったと思ったら、今度はこの世に出現した地獄へと来てしまったのである。まあ、余計な欲をかいて、同行を頼んだのだから、完全に自業自得だが。


「中は随分と広いのね。あなたがこの前踏破したダンジョンも、このくらいの広さだったの?」

「・・・・・・ここはボス部屋と同じ位の広さかな。階層は全部で一万。途中のモンスターは、ほぼ全てがドラゴン系で、最奥にいるのはバハムートよりもデカいクジラだな」


 クレアの興奮が収まるのをナンシーと一緒に待っていたエルザが、頃合いを見計らってカズキに声を掛けると、一瞬の間があってから返事が返って来た。三十分もここにいたのに、今まで魔法を使って探査をしていなかったらしい。


「一万? 全ての階層がこのくらいの広さだと仮定しても、普通に一人で攻略したら、一ヵ月は掛かりそうな規模ね」

「「「「はい?」」」」


 エルザの言葉に、目を剥く『朱き光』一行。それも無理はない。彼女らが直前に攻略したミスリルダンジョン(全300階層)でも、攻略に半年を掛けたのである。それも、10階層ごとに何故か設置されている、安全地帯セーフティエリアにある転移門ゲートという地上と行き来できる施設を使っての話だ。それをエルザは、たった一人で僅か一ヵ月で攻略できると言ったのだから、『朱き光』が困惑するのも無理もない話である。


「今回はボーダーブレイクの解消という依頼で来てるから、そんなに時間をかける事は出来ないけどね。可能ならそのまま残して、定期的にドラゴン狩りに来たいんだけど・・・・・・。なんか良いアイデアない?」

「むう・・・・・・」

「「ミャウ・・・・・・」」


 カズキの言葉に、うんうんと唸り始めるアルフレッドとナンシーとクレア。これからカズキが全種類のドラゴンを確保するとはいえ、個体によっても味のバラつきは当然有るだろう。だから可能なら、このダンジョンは潰さずに確保しておきたいところだった。


「悩ましい問題ね。コアを壊さないとボーダーブレイクは解消しないし・・・・・・」


 肉の安定供給の必要性を感じているエルザも悩んでいた。カズキが【テレポート】を開発して以降、彼の協力の元、世界各地の孤児院や被災地、戦災病院への支援(ランスリードと違い、他国は邪神の影響で活発化した魔物の被害が大きい)を始めたので、肉はいくらあっても足りないという事は無いからだ。


「そうだ! コアを入れ替えるってのはどう!?」


 皆で悩む事――その間もドラゴンは襲い掛かってきたが、全てカズキが創り出した空間内で瞬殺(普通に倒すとドロップアイテムを残して消えるため)、アルフレッドが料理し、クレアが平らげた――更に三十分。最初に声を上げたのはエルザだった。・・・・・・真面目に考えていたのがエルザだけだったとも言えるが。


「成程。発生してからの日数が新しいオリハルコンダンジョンのコアを移植すれば、ボーダーブレイクもそんなに心配しなくてもいいね。問題はコアの移動が出来るかだけど・・・・・・。なんか知ってる?」

「「「「・・・・・・」」」」


 カズキの問いかけに、『朱き光』は沈黙で応じた。ダンジョンを攻略するにはコアの破壊が必須なので、そもそもコアを持ち帰ろうなどと考えた人間がいなかった事と、目の前で繰り広げられるドラゴンの調理戦いの様子の凄まじさに、頭の処理が追い付いていなかった為だ。


「知らないみたいだな。まあ、駄目だったら全部捕獲すればいいだけの話か。面倒だけど」

「行くの?」

「うん。ちょっと時間が掛かるかも知れないけどどうする? 一度帰る?」

「時間が掛かると言っても1時間かそこらでしょ? ならここで待ってるわ」

「わかった」


 会話を終えたカズキは、エルザが結界を張ったのを確認してから【テレポート】で姿を消した。

 そしてきっかり1時間後。カズキは満面の笑みを浮かべて戻ってきたのだった。

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