第221話 最下層へ
「その様子だと上手くいったみたいね」
カズキの笑顔を見て、結果を察したエルザが声を掛けた。
「うん。幾つかのダンジョンで試したけど、結果は全部成功だった。まあ、コアを抜き取られたダンジョンは崩壊しちゃったけど、ダンジョンは増える一方だから問題ないよな?」
カズキに質問された『朱き光』の面々はコクコクと頷いた。ここ何百年かで加速度的にダンジョンが増えているのが問題視されているこの世界において、ダンジョンが減って喜ぶことはあっても、その逆はない。何しろ、冒険者の実力も数も、全くと言っていいほど足りていないからだ。
因みに言葉が出ないのは、人知を超えたカズキの能力を目の当たりにしたからである。
「で、どんな感じなの? やっぱりコアに合わせてダンジョンも縮むの?」
「そんな感じ。オリハルコンダンジョンにブロンズダンジョンのコアを使ったら、そこはブロンズダンジョンになってた。面白いのはその逆で、ブロンズダンジョンにオリハルコンダンジョンのコアを使っても、オリハルコンダンジョンにはならない。多分だけど、燃料? になる瘴気の濃さが足りないんだろうな。逆の場合は、コアの能力が足りないから、処理できる範囲の大きさにダンジョンを造り替えるんだと思う」
「その考え方からすれば、この付近は特に瘴気が濃い上に、コアも処理能力が高いって事ね。だからここのダンジョンは、一万階層もあったと」
「多分ね。だから一際瘴気の濃い場所を探してコアを差し替えるのが、今後の方針になると思う」
一聴すると世界の為になるようなカズキの言葉に、『朱き光』の面々の目が輝く。既にカズキの実力を疑っていない彼女たちにとって、その言葉は世界の救済を意味しているからだ。
たとえそれが、『異世界に養殖場を作ろう!』という、極めて利己的な話であっても、結果的に世界の為になるならどうでもいいのである。
「それで? 今回持ってきたのはどのダンジョンのコアなの?」
「500階層クラスのダンジョンのやつ。ここと同じように、ドラゴン系のモンスターが主体のダンジョンのだ。ボスは普通の(100メートル級)のドラゴンだった。そっちには亜竜とかいたから、ボスがワイバーンだったブロンズダンジョンのコアと差し替えてある。コアによってモンスターの種類が変わる可能性もあるし」
「賢明な判断だな。それにしても幾つのダンジョンを潰したんだ? 選んだ場所が全部、ドラゴン系だった訳でもないだろう?」
「検証に5。ドラゴン系のダンジョンを探してる間に潰したのがやはり5。合計で10ですかね」
「「「「10!」」」」
あり得ない戦果を聞いて、『朱き光』が驚きの声を上げる。とはいえカズキの常軌を逸した能力を知っているので、疑う事はない。彼女たちも段々とカズキの異常性に慣れてきたようである。
「さて、話はここまでにして最下層に向かいましょうか。コアを入れ替える前に、全種類のドラゴンを確保しないといけないのでしょう?」
「そうだね。とは言っても、ボーダーブレイクの影響なのか、殆どのドラゴンがここにいるんだけど。だから後は、ここのボスを捕獲するだけだったりして」
「バハムートよりも大きいクジラだったか? ここのボスは」
前回カズキが捕獲したバハムートは全長4000メートル。現在養殖しているファイアードラゴンに並ぶ大きさだ。能力的にはファイアードラゴンが遥かに上だが。
「ええ。大体倍くらいの大きさですね。流石に味まではわかりませんが」
カズキの言葉に、『朱き光』が信じられないとでも言いたげな表情をした。それは、今までに確認されている中で一番強い存在であるバハムートを捕獲し食べたと思われる会話をしている事(ダンジョンで倒すとドロップ品になるので必然的に捕獲する必要がある。そして、ただ倒すよりも捕獲の方が難しいのは自明の理だ)と、それを上回るであろうモンスターの存在を知っても、同様の対応を取ろうとしている事に対してである。
「それは行ってからクレアに鑑定して貰えばいい。その為には直接お目にかかるのが一番だ」
「それもそうですね。じゃあ移動します」
未知の食材を前に逸っているのか、珍しく急かす言葉を口にしたアルフレッドの要望に応えてカズキが【テレポート】を使用すると、一瞬にして景色が切り替わり、そして目の前には巨大なモンスターが口を開けて待ち構えていた。
「問答無用か」
大きく開いた口の奥から吹雪のブレスが吐き出される。それを難なく防いだカズキは、迫りくるその姿を確認しようと再び【テレポート】を使い、モンスターの全体を確認できそうな場所へと移動した。
「これはまた、随分と見晴らしのいい場所だこと」
見渡す限り平坦な荒野にいると知ったエルザが、周囲を見てそんな感想を口にする。
「空から見下ろせば、一発で発見されるな。こりゃ」
何しろ地面は茶色一色である。そこに違う色が混ざっていたら、発見してくださいと言っているようなものだ。
「初手でブレスをお見舞いして、防がれてもそのまま捕食。万一逃げられても、隠れる場所がない荒野だから発見は容易か。随分とまぁ、殺意の高いダンジョンだな」
取り逃がしたのに気付いて、即座に追撃に掛かってきた空飛ぶ巨大なクジラを見上げながら、カズキは呆れたように呟いた。
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