第211話 カズキ襲撃計画
その日、カズキの親戚である四人組のパーティ、『日本に帰り隊』がブロンズランクダンジョンを攻略して戻ってくると、ギルドは大騒ぎになっていた。
「あん? なんかあったのか?」
チンピラみたいな男――ケンジが騒ぎの中心に目を向けると、ギルドマスターがボーダーブレイクが発生した可能性がある事と、カズキがその場に一人残り、モンスターを足止めしている事を告げ、協力者を募っているところだった。
「・・・・・・どうする?」
ケンジの隣でギルドマスターの話を聞いていたマサルが、答えのわかり切った問いを発する。
「行くわけねえだろ」
「そうよ、私達だってダンジョンを攻略してきたばかりで疲れてるんだから。まあ、疲れてなくても行かないけどね」
「それよりもサッサと受付に行って、ドロップ品を買い取ってもらいましょう。早くお風呂に入りたいわ」
「いや、受付に行くのは明日の方がいい。同郷だからという理由で、協力を要請される可能性もある。それを断るところを見られたら外聞が悪いからな」
「お前はリリー(受付嬢)の印象を悪くしたくないだけだろうが!」
大声でそんな話をしながら、ギルドを後にする四人。その場にいた冒険者やギルドの職員は、そんな彼らを冷たい目で見送る。ふた月程の間の活動で、彼らが信頼に足る人間ではないという烙印を押されている事には気付いていないようだった。
そして次の日の夕方。四人が手入れもしていない装備のまま――ダンジョン帰りを印象付ける為の浅はかな行動である。因みにだが、彼らは装備の手入れなどしようとした事もない。全てギルドが紹介した鍛冶屋(
「チッ、これだから野蛮人共は・・・・・・」
「いつも以上にむさ苦しいわね」
「あと臭い。お風呂くらい毎日入れって感じ」
「低能な奴らの事など気にしなければいい。それよりも換金だ」
いつもの様に特に声を潜める事もなく、四人は受付へと向かう。彼らの進路上にいる冒険者たちは、皆が皆、嫌そうな顔で場所を開けた。四人はそれを選ばれた自分達への畏怖だと勘違いして優越感に浸っていたが、実際には彼らと関わり合いになりたくないだけである。
特別なジョブを持つ
「こんにちは、リリーさん。ダンジョンを攻略してきたので、いつもの様に処理をお願いします」
受付に辿り着くと、いつもの様にマサルがリリーに声を掛ける。この時、何故か髪をかき上げているのは、少しでも自分を良く見せたいという心理が働いているからだ。まあ、欠片もリリーには響いていないのだが。
「ご無事で何よりです。マサルさん。そして皆さんも。では査定しますのでこちらへ」
内心嫌っている四人を前に、プロ意識から強引に微笑みを浮かべたリリーが四人を連れてアイテムの鑑定が出来る部屋へと移動する。そこで四人は各々の【インベントリ】から、ドサドサとドロップアイテムを放出し始めた。それらはベルトコンベアのような魔道具によって運ばれ、その先の金属探知機っぽい魔道具によって鑑定されるのだ。無駄にハイテクである。
「流石皆さん。今回も大漁ですね。・・・・・・出ました。査定額は400万ゴールド(1ゴールド約1円)となります。これだけの額となると、用意するのに時間が掛かりますが、宜しいでしょうか?」
「構わねえ」
「ありがとうございます。それでは、明日の昼以降にお越しください」
リリーの『用意するのに時間が少し掛かります』という言葉に気を良くしたマサル以外の三人は、ダンジョン攻略報酬(1パーティで10万ゴールド)だけを受け取って、上機嫌でギルドを後にする。
彼らは自分達が稼ぎすぎた為、ギルドに金がないと勘違いしていたが、勿論そんな事はない。普段のギルドならば、その場でニコニコ現金払いが出来る程度の額でしかないのだ。
では、何故そのような事になっているのか。それは、カズキがオリハルコンランクのダンジョンを攻略したからである。彼への攻略報酬(100億ゴールド)だけで、ギルドの金庫か空になってしまったのだ。まあ、普通なら年単位で攻略するオリハルコンランクのダンジョンを、1時間も掛けずに踏破してのけるとは誰も想像すら出来なかったので、仕方がない部分もあるのだが。
「ところでリリーさん。今日はいつも以上に騒がしいようですが、何かあったんですか?」
一人だけギルドに残ったマサルが、デートに誘う為の糸口を見つけようとでも考えたのか、アルカイックスマイルを浮かべているリリーに声を掛ける。
「ああ、それは・・・・・・」
アルカイックスマイルから一転、心からの笑顔を浮かべて話始めるリリーに見惚れながら、デートに誘う機を窺うマサル。だが、彼に幸運の女神が微笑む事は無かった。
リリーの勢いに押され、相槌しか打てなかったのもあるが、それ以上に話の内容が衝撃的だったからだ。
「えっ、カズキが!?」
「そうなんです! たった1人でオリハルコンランクのダンジョンに挑んで1時間も掛けずに攻略。ボーダーブレイクまで収束させちゃったんですよ! その上、今までの歴史でも現れた事がないゴッドランクになった事で、世界中のギルドが大騒ぎしてるんです! 凄くないですか!?」
「え、ええ。そうですね・・・・・・。あ、僕ちょっと用事を思い出したんで失礼しますね」
マサルはそう言って、そそくさとギルドを立ち去った。行くのは当然、4人が塒にしている高級な宿だ。最早、リリーの事など頭にない様子である。
そして翌日の朝も遅い時間(宿に帰っても誰もいなかったのだ)、漸く4人揃ったところでマサルは話を切り出した。
「カズキがオリハルコンランクのダンジョンを1人で攻略した!? それは確かな話なんだろうな?」
「ああ。リリーさんに聞いたから間違いない」
「という事は、カズキを利用すれば日本に帰れるかも知れないのね?」
「じゃあ簡単な話じゃん。あいつボッチだから、仲間に入れてあげるって言えば、涙を流してパーティに入るんじゃない?」
「そうだな。ないとは思うが、拒否られてもこっちは四人だ。その時は全員で袋にして、強制的に言う事を聞かせればいい。お誂え向きに、こんな魔道具も手に入った事だしな?」
そう言ってケンジは隷属の首輪と呼ばれている物を取り出す。それは今回のダンジョンでドロップした激レアアイテムだった。
「それを使うつもりなら、勧誘する必要は無いんじゃない? 気絶させて、その間に首輪を嵌めてしまえば?」
「確かにその方が手っ取り早いな。ならそれで行こう」
カズキの実力と、この世界の事を良く知らない四人は、穴だらけの杜撰な計画を立て、四日後に実行した。
結果は言うまでもなく失敗。その上、一部始終を見ていた冒険者によってギルドに報告され、拘束された上で自分達でドロップした隷属の首輪を嵌められた四人は、一年間の強制労働を科されたのだった。
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