第212話 新たな漂流者

「ここが異世界メモリアなのね。元の世界とは空気が違うわ」

「ああ。空気が粘りついているような感じだ。これが瘴気ってやつか?」


 その日。異世界メモリアに新たな漂流者ドリフターが二人現れた。

 一人は金髪で、女神の如く整った顔立ちとプロポーションの、ゆったりとした神官服を着た若い女性。

 もう一人は着古した皮鎧をその身に纏い両方の腰に剣を佩いた、どことなく振る舞いに品がある美中年の男である。まあ、エルザとアルフレッドなのだが。


「じゃあ早速冒険者ギルドに行く? ヒヒイロカネを手に入れるには、ダンジョンを攻略するしか手はないし」


 そんな二人に、彼らを連れて来たカズキが声を掛ける。彼らの目的は勿論、ヒヒイロカネだ。

 カズキが手に入れたカズピュ~レ作成キットや、ハルステンの木槌。そしてリントヴルムの外皮となった金属(メモリアでは、ヒヒイロカネの変異先としてはポピュラーな物)など、変化する素材も用途もバラバラになる理由について、ある仮説が浮上したのが発端である。

 その仮説とは、ヒヒイロカネの所有者の実力を補う物か、それが必要ない場合は、所有者が真に望む物が具現化するのではないかという事だ。

 今回の例で言うと、ハルステンやリントヴルムが前者で、カズキが後者という事になる。

 それを検証するために選ばれた(というか全員が来たがったので、じゃんけんで決めたのだが)のが、エルザとアルフレッドの二人なのだ。


「その前に、ブロンズランクになるための条件を満たしてしまいましょう。無駄を省きたいわ」

「確か、ウルフとゴブリンをそれぞれ一人頭100匹ずつだったか? カズキ、それらがいる所に案内してくれ」

「わかりました」


 カズキの【テレポート】で適当な場所へと移動した2人が、早速とばかりにウルフとゴブリンを退治していく。苦戦しようもないので、程なくしてランクアップの条件は整った。


「腹が減ったな。ギルドのある街の屋台で飯にすっか」

「いいわね。丁度、街の様子も確認したかったのよ」


 アルフレッドの提案を受け、街に移動した3人が屋台を物色して回る。エルザとアルフレッドはこの世界のお金を持っていないので、全てカズキの財布からだ。

 途中、カズキの名前を連呼する奇妙な4人組が突然現れ、直後にカズキの無意識の魔法で撃退された挙句にしょっ引かれていったが、その後はトラブルもなく、昼を大分過ぎた時間に三人はギルドの扉を潜った。




「カズキさん!」


 ギルドに入ると同時に、カズキは声を掛けられる。

 そちらへ視線を向けると、カズキ(というか漂流者ドリフター)の専属受付嬢である、リリーが手招きしていた。


「マサルさん達に襲われたと聞きました。災難でしたね。素行が悪いとは思っていましたが、まさかこんな事をするなんて・・・・・・」


 そう言って、沈痛な表情を浮かべるリリー。だが、カズキはリリーの言っている意味が分からず、首を傾げた。当人に襲撃されたという認識がないためである。


「さっきの騒ぎじゃない? ほら、あんたの近くに来たら、勝手に転んで気絶してた四人」

「・・・・・・ああ」


 見かねたのかエルザが口を挟むと、心当たり――ナンシーが威嚇していたというネガティブなもので、四人が親戚であるという事実には気付いていない――があったのか、沈黙の後にカズキが頷いた。

 

「えーと。それで今回はどういった御用でこちらへ? そちらの神々しい女性と、渋いオジサマに関係する事ですか? お二人共、この辺りでは見かけた事はありませんが・・・・・・」


 余りにも淡白なカズキの反応に困ったリリーは、先程から気になっていた二人に視線を向けた。


「ええ。この二人の登録に来ました。この世界に来たばかりなので」

「新しい漂流者ドリフター!?」

「はい。姉のエルザと、伯父の弟で料理人のアルフレッド。二人の登録に来ました」


 驚くリリーを余所に、カズキは淡々と二人を紹介する。

 それで冷静さを取り戻したリリーは、カズキがケンジたちの事を親戚じゃないと頑なに言っていた理由がわかった気がした。

 人類を超越した力を持っているカズキは、自分達の知らない特殊なアビリティか何かで、この二人が来ることを事前に知っていたのだろうと。大外れである。


「畏まりました(確かにあの四人とは雰囲気が違うわね。どう考えても、カズキさんはこっちエルザとアルフレッド側だわ)。」


 5年も受付をやっていれば、自ずと冒険者を見る目が鍛えられる。その経験からすれば、カズキが連れて来た二人は、リリーが今まで見てきた中でも1、2を争う実力を持っているのは間違いなかった(カズキの事は見抜けなかったが、それは仕方ないと諦めている。何しろ、ギルドマスターのハルステンも見抜けなかったのだから)。

 

「ああ、忘れてた。ブロンズランクに昇格する条件は満たしているので、よろしくお願いしますね」


 だから、カズキがそんな事を言いだしてもリリーは慌てなかった。テキパキと討伐証明を確認し、速やかにブロンズランクのギルドカードを発行したのだ。その際、同僚の誰からも反論の声が上がらなかったのは、皆が皆、二人の放つ雰囲気に気圧されていたからである。

 

「では、ジョブとステータスの鑑定を行います。この魔道具に手を置いてください」

「俺が先にやる」


 リリーの声に応じて、アルフレッドがエルザに先んじて魔道具に手を置く。自分よりも間違いなくステータスが上であろうエルザの後に鑑定するのは嫌だったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る