第210話 カズキの固有武器?

「それがヒヒイロカネの腕輪ブレスレットなのね。それで? カズキに適した武器ってのは一体何だったの!? 剣!? それとも杖!?」


 カズキ同様、まじまじと腕輪を眺めた挙句、ペタペタ触ったり、コンコンと叩いたりと好奇心いっぱいのエルザが問う。カズキにヒヒイロカネの話を聞き、実際にそれを手に入れたと聞いて、好奇心が暴走しているらしい。

 

「まだ呼び出していないから何とも言えないかな。ただ、武器じゃないような気はしてる」


 時間が時間だという事もあって、ヒヒイロカネを手に入れる為の儀式を終えた後、即座にランスリードへと戻ってきたカズキは、姉の勢いに押されつつもそう答えた。


「何故そう思うのですか?」


 エルザ程ではなかったが、やはり興味深そうに腕輪をツンツンしていたフローネ(半分はバハムートに意識が向いている)が不思議そうな顔をする。


「ただの勘。とは言っても信じられないだろうから、呼び出してみようか。・・・・・・来い」


 カズキの意志に反応して、腕輪が一瞬にしてその姿を変える。そう、表面に猫の写真と、器にペースト状の何かが盛り付けられているような絵が描いてある、猫たちが大好きなおやつであるチャ○ちゅーるっぽいナニカに。


「どうしてチャ○ちゅーる・・・・・・? いやまあ、この上なくカズキらしいんだけど」

「エルザさん。少し違うみたいです。正確にはカズピュ~レと書いてあります。後、何味かも書いてません」

「そうみたいね。ついでに言えば、中身も入っていないみたいだわ」


 妙に薄っぺらいのが気になったのか、一つ取り上げたエルザが封を切ると、彼女の言う通り、中身は空だった。


「ヒヒイロカネにもハズレがあるのかしら?」


 どれか一つくらいは中身が入っているかもしれないと、フローネと手分けして全てのカズピュ~レの封を破ったエリザがそんな事を言う。だが、それはエルザの勘違いだった。


「いやいや、これはとても素晴らしい物さ」


今まで黙ってカズピュ~レ(未使用)を眺めていたカズキが、そう言って立ち上がる。


「どういう事? ・・・・・・あら?」

「消えてしまいした」


 聞き返したエルザと、フローネが持っていたカズピュ~レ(使用済み)が消えて、二人が目を丸くする。それどころか、封を切られてテーブルの上に置かれていた物も消えていた。


「ああ、腕輪に戻ったんだ。それもヒヒイロカネの一部だから」

「そう。ゴミの事を考えなくていいのは便利かもしれないわね」

「エコだろ?」


 ブレスレットを示して疑問に答えたカズキは、二人を連れて『次元ハウス+ニャン』内にある養殖部屋へと【テレポート】する。そこで漸く、二人はカズピュ~レの能力を理解した。

 

「そういう事! だから中身が入っていなかったのね」

「つまりカズキさんのヒヒイロカネは、オリジナルのカズピュ~レを作るための物なんですね!?」

「正解! 更に言うと、カズピュ~レの中は時間の経過がない。つまりは・・・・・・」

「ドラゴンもカズピュ~レに出来るんですね!」

「そういう事だ。これからは一々魔法を使わなくても、好きな時におやつの時間に出来るぜ」


 ドラゴンやワイバーンなどの足が早い肉の保存には、時を止める魔法を使うしかない。カズキがその場にいれば何の問題もないが、そうでない場合は【時間停止】の魔法と、その状態の肉を加工――時間が止まっているので、そのままだと外部からの干渉を受け付けないのだ――出来るようにする魔法。加えて肉をピューレにする魔法の、3つを付与したマジックアイテムが必要になる。

 だが、唯でさえ時間を止めるという世の理に反する魔法は、魔力の消費も並じゃない。当然、必要なミスリルの量も桁違いだった。その量たるや、0.1グラムのペーストを保存するのに、圧縮したミスリルで城が建てられる大きさである。重量は魔法でどうとでもなるが、どう考えても携帯できない為、カズキがいない時は猫たちに我慢を強いていたのだ。


「でも、ピューレを用意するのも、充填するのも結構な手間よね? その辺りはどうなってるの?」


 盛り上がるカズキとフローネを微笑ましそうに見ながら、エルザが気になった事を指摘する。とはいえ、カズキの喜びようから察するに、その辺りも解決しているような気はしているのだが。ついでに言えば、その点が解決していなくても、カズキが手間を惜しまないという事も。


「それが物凄く簡単なんだ。見てて」


 エルザに答えたカズキが念じると、腕輪が再び変形する。今回は無数の空のカズピュ~レと、何故か小さな注射器が複数、セットでついてきた。


「まずこれを刺す」


 そう言って、手近な場所にいたファイアドラゴンの前脚へとカズキは無造作に注射を刺した。アルフレッドがどんなに頑張っても、文字通り刃が立たなかったドラゴンの外皮をあっさりと貫通して。


「そしてこれを引く」


 やはり無造作にカズキがピストンを引くと、空の筈だったカズピュ~レの内、100本程に中身が充填された。ついでに外装のイラストがクレアに変わり、『ファイアドラゴンの前脚』と、中身の味も印字される。


「以上終わり。な? 簡単だろ?」


 そう言いながら、カズキが丁寧な手つきで封を破る。すると、どこからともなくクレアが飛んできた。


「ミャー!」


 そして、物凄い勢いで一本目を完食すると、カズキを促して二本目に取り掛かる。因みにナンシーはお腹いっぱいなのか、クレアの声に耳をピクピクさせただけで、丸まって眠ってしまった。


「これは簡単ですね! 私にも出来るのでしょうか!?」


 そう言うや否や、カズキの返事も聞かずに注射器をぶっ刺すフローネ。しかも刺したのはである、尻尾と後ろ脚だ。どう見ても、自分で食べようと考えているとしか思えない動きであった。


「教える前からミックスに気付いていたか。流石フローネ、恐ろしい女だ」


 フローネの顔のイラストと、『尻尾と後ろ脚ミックス』と印字されたカズピュ~レを見て、カズキが戦慄する。


「ほんとそうよね・・・・・・」


 流石に直は人としてマズいと思ったのか、カズピュ~レをパンにたっぷりと乗せて食べているフローネを見て、エルザもカズキに同意した。

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