第209話 カズキ、ヒヒイロカネをゲットする
「疑ってすまなかった」
カズキの左手の甲に現れていた紋様を見た事と、目の前でケルベロスを瞬殺してみせた事で、ハルステンは今までの自分が間違っていた事を率直に謝罪した。
「頭を上げて下さい。ステータスを偽装していたこちらも悪いんですから」
手の甲に現れていた紋様をしげしげと見ながら、カズキがそう返す。今まではナンシーを抱っこしていたので、気付いていなかったのだ。
「そう言って貰えると助かる。帰ったら早速、儀式を行うとしよう。それからランクも更新する。恐らくは、オリハルコンランク。最低でもミスリルランクになっているだろう。今いる場所が、ミスリルランクの領域で、君はブロンズランクにも関わらず、外に弾き出されていないからな」
「だろう? その言い方だと、ランクを決めるのはギルドの役割ではなさそうですね」
「ああ。ブロンズランクまでの手続きは我々ギルドで行うが、その後のランクの上昇にはギルドは関与していない。というか出来ない。ギルドカードを魔道具に通すと、その実力に応じたランクに自動的に変更される仕組みだと思われる。過去には、ブロンズからゴールドに一足飛びで昇格した者達もいた。彼らはブロンズランクでありながら、境界を抜けてゴールドランクの領域へ足を踏み入れていたらしい」
「それはもしや、
「正解だ。彼らは元の世界でも、冒険者として活動していたらしい」
「・・・・・・色々な世界から人を呼んでいたという事か」
この世界の神が、形振り構わず異世界人を拉致していた事実が発覚したりしつつも、来た道を戻る二人。途中、カズキ捜索隊兼、ボーダーブレイク調査隊の面々と合流し、ギルドに戻ってきた頃には日が暮れていた。
「では、ギルドカードを預かろう」
ギルドに戻ったハルステンは、不安からか、調査隊の帰りを待っていた冒険者たちにボーダーブレイクが収束した事を告げ、解散させると、カズキのギルドカードを手に受付へ向かう。
ハルステンの言葉に安心した冒険者たちはそれで素直に解散したが、ボーダーブレイクの調査隊は誰一人帰ろうとしなかった。ハルステンの口から、今回のボーダーブレイクを解消したのがカズキだという事を聞いていたからである。
「・・・・・・待たせたな。これが新しいギルドカードだ」
一時間程してハルステンが戻ってくる。通常、ほんの数秒で終わるランクの更新に時間が掛かったのは、カズキの戦闘記録を確認する事(バハムート以外にも、色々倒していたことが発覚)と、過去の冒険者ランクについて調べる為だった。
「新しいランクはゴッドランク。これまでの歴史の中で、一度として現れた事のなかったランクだ」
『おおーー!』
ハルステンの言葉に、待機していた調査隊の面々が歓声を上げる。誰もが思っていたのだ。オリハルコンランクのダンジョンを瞬殺したカズキが、通常のランクで収まるような器ではないと。
「これはヒヒイロカネの武器の方も期待が持てるな!」
「ああ! 六芒星以外の紋様が現れたなんて聞いた事がないからな!」
「ステータスが全て測定不能だったんだろ!? 最早どんな武器が現れるのか、想像もつかないな!」
この世界においてもステータスは極秘情報だった。能力値を知られてしまえば、そこから戦闘スタイルなどが推測できてしまうからだ。なのにステータスが知られているのは、助けた四人組に問われるままに、全てを白状してしまったカズキの自業自得である。ハルステンを待つ間、ナンシーのブラッシングでゾーンに入っている隙を突かれてしまったのだ。まあ、知られたところで問題はないのだが。
「では次だ。儀式を行うから、こちらに来てくれ」
騒ぎが収まったのを見計らって、ハルステンがカズキを連れてギルドの奥へと誘う。案内されたのは、床に六芒星の魔法陣が描かれた、薄暗い部屋だった。
「中央に立ってくれ」
その言葉に頷いて、素直に中央に立つカズキ。尚、ナンシーはいない。眠そうだったのと、何が起こるかわからない事から、『次元ハウス+ニャン』へと退避させているからだ。
「では儀式を始める」
具体的に何をすれば良いのかの説明すらないまま、ハルステンが部屋の外へ出て扉を閉める。と思ったら、外へ出て行った筈のハルステンの声が部屋中に響き渡った。
「では息を吸って~。止めてくださーい(棒読み)」
その台詞は、何故かレントゲン撮影の時によく聞くものに酷似していたが、それでもちゃんと効果はあったらしい。
カズキの左手の甲の紋様――猫たちがじゃれあっている様が描かれている――が輝き出したかと思うと、次の瞬間にはカズキの手首にブレスレットのようなものが出現したのである。
「以上で儀式は終わりだ。以後、声に出して呼ぶか、念じるかすれば好きな時に武器を呼び出す事が出来るだろう」
ブレスレットをしげしげと眺めているカズキに、ハルステンが声を掛ける。淡々と話してはいるが、興味深々なのがバレバレだった。
類稀なる能力を持ったカズキに相応しい武器とはいったい何なのか、流石のハルステンも気になっていいたのだ。
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