第175話 タゴサク、真実を知る
タゴサクの活躍で体力、魔力を温存出来たラクト達は、残り一時間という所でトラップ部屋に侵入してしまい、そこでタイムアップを迎えるという、何とも締まらない結果で試験を終えた。
不完全延焼だが、運営の思惑に嵌まり時間を無駄にしたのは自分たちなので、文句を言おうにも相手がいない。
今はそんなモヤモヤを吹き飛ばそうと、強者が屯する場所――ランスリードの王城――へと六人は移動してるところだった。
「ほえー」
何も考えずに後を付いてきたタゴサクは、五人が門番と親しそうな様子を見て呆けたような声を上げる。
そして何を思ったのか、突然身だしなみを気にし始めた。
「あー、初めてお城に入る時、僕もあんな感じだったなぁ」
「わかる。俺達一般人には縁がない場所だからな」
タゴサクの不審な態度に共感を示したのはラクトとエスト。だが二人は間違っていた。
「(そそそそそんな。いきなりご両親に紹介だなんて。フローネさん、ちょっと気が早すぎるべ)」
試験中からの妄想を引きずっていたタゴサクは、フローネが自分を両親に紹介しようとしていると解釈していたのだ。
「? 大丈夫ですよタゴサクさん。そんなに緊張しなくても」
タゴサクがそんな事を考えているとは毛ほども思っていないフローネは、緊張を解そうと笑顔を浮かべて彼の手を取る。
「(そそそそそんな大胆な! こういう事はもう少しお互いの仲を深めてから・・・・・・)」
フローネの柔らかい手の感触に体を硬直させ、更なる妄想の世界へと旅立つタゴサク。
「えーと、どうしましょうか?」
傍目には緊張の極みに達したようにしか見えないタゴサクを見て困り顔をしたフローネは、助けを求めるように他のメンバーへと視線を送る。
「こうなったら、引きずっていくしかないのでは?」
「名案ですね! では――」
ラクトの言葉を真に受けたフローネは、硬直しているタゴサクの襟首を掴んで力任せに引きずり始める。
この光景を城中の人間に見られたタゴサクは、以後、『姫様に引きずられた男』として認識される事となった。
「お帰りなさい」
タゴサクを引きずったフローネとその他四人は、暇な時はソフィアとカズキが大抵いる、ソフィアの私室へ赴いた。
事後承諾だがタゴサクを仲間にした事を報告に行くためだ。
そこには予想通りソフィアとカズキがいて、いつものように猫に囲まれていた。
「ただいま戻りました」
「はははは初めまして! オラの名前はタゴサクと言います! 今後、末永くよろしくお願いしますだ!」
部屋の前で王妃の私室だと告げられたタゴサクが、フローネに続いて緊張気味に声を張り上げる。
「あら、これはご丁寧に。色々と大変だろうけど、こちらこそよろしくね。まあ、その思いは届かないだろうけど」
タゴサクが緊張している理由を察したソフィアは、後半の言葉を誰にも聞こえないように呟く。
「おう、よろしくな。それじゃ早速だが、腰の袋を見せてくれ」
カズキはタゴサクの言葉に気のない返事をして、昨日から気になっていた袋を(勝手に)手に取った。
そして、興味深そうに手を突っ込んだり、のぞき込んだりと、様々な角度から検証し始める。
「うん。ただの袋だな。という事は、向こうの世界で言うスキルって奴か」
そう言って立ち上がったカズキは、次にタゴサクが持っている剣を(やはり勝手に)手にし、鞘から抜いた。
「以前見た時よりもミスリルの含有量が減っているな。なんでだ?」
「へ? ミスリル? それが何かは分からねえが、その剣は力を失っていると聞いただ」
いつも腰に差している剣の重さが無くなった事に違和感を覚えたのか、やっと正気に返ったタゴサクが目を白黒させながらカズキの質問に答えた。
「ふーん」
「だから、その剣の力を取り戻す事が出来れば、『
「「「「「「・・・・・・?」」」」」」
タゴサクの口から突然飛び出した『邪神』という
タゴサクがこんな事を言いだしたのは、自分の剣を特別だと看破したカズキを、超一流の鍛冶師だと勘違いしているからである。根拠は試験に参加せず運営に回っていた事と、以前のゴブリン退治でも後方に下がり、様子を見ていた事だ。
「いきなりこんな話をして申し訳なく思うべ。だども、近いうちに『邪神』は復活する。それは間違いねえだ」
「「「「「「・・・・・・」」」」」」
タゴサクが断言してもカズキ達は沈黙したままだった。それを逃避と解釈したタゴサクは、信じてもらう為に自身の正体を明かす決意をする。
「今まで隠していたが、オラは勇者だ」
タゴサクはこう言えば、カズキが剣の修復に協力してくれると思っていた。
奇しくも仲間になった、『
だがその願いは、当然のように叶う事はなかった。
「あー、盛り上がってるところを申し訳ないんだけど」
「?」
「『邪神』なら倒されたよ? そこにいるカズキの手で」
「・・・・・・へっ?」
猫の首に鈴をつける役割を押し付けられたラクトが、申し訳なさそうな顔で残酷な事実を突きつけたからだ。
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