第176話 勇者VS大賢者

「そうなんか。オラが漂流している内に『邪神』は倒されてたんか・・・・・・」


 残酷な事実を突きつけられたタゴサクは、気を取り直して邪神討伐の一部始終をカズキから・・・・・・ではなく、フローネから聞いた。

 何故当人ではなくフローネなのかと言うと、カズキに説明させたら『魔法で倒した』の一言で済ませてしまったからだ。

 他の人間にはそうでなくとも、カズキからすれば『邪神』は雑魚なので、どうしてもそういう表現になってしまう。そこで登場したのが、エルザから旅の一部始終を聞いていた、ローラン・フリードというペンネームで執筆活動をしているフローネというわけだ。


「カズキさん。オラの代わりに世界を救ってくれてありがとう。そして、同族が迷惑を掛けた事を謝罪するだ」


 フローネの話をハラハラドキドキしながら聞いていた(物語要素が入って、かなり誇張されていたのだ)タゴサクは、話が終わると姿勢を正してカズキに頭を下げる。

 素直なタゴサクはフローネの語る物語を真に受け、カズキ達が多大な苦労をして『邪神』を倒したと思い込んでいるのだ。


「礼は受け取るが謝罪は不要だ。タゴサクが他の勇者クズと違うのは、ここにいる誰もが知っている」


 カズキの言葉にその場にいたラクト達も頷く。他人を守る為、ゴブリンの群れを単身で食い止めようとした事もあるタゴサクを、”勇者だから”という理由で敵視する人間はこの場にはいなかった。


「そう言って貰えると有難いべ。ただ、その・・・・・・」

「どうした?」


 顔を上げたタゴサクが複雑そうな顔でカズキを見つめる。


「フローネさんの話を聞いて、カズキさんの凄さはわかっただ。だども・・・・・・」

「? ああ、そういう事か」


 タゴサクの言いたい事がわかったのか、カズキが立ちあがり、ナンシーとタゴサクを連れて【次元ハウス+ニャン】へと消える。

 

「何々? どういう事?」

「?」


 突然の展開についていけないラクトとコエンに、タゴサクが言いたかった事を理解し、やはり立ち上がった他の四人を代表してソフィアが答える。

 

「頭では理解出来ても納得は出来なかったんでしょうね。だから、カズキの実力を知りたいと思った。そんなところでしょう。殺気とは違うけど、それに似たようなモノを飛ばしていたわ」

「そうなんですか? 全然わかりませんでした。教えて下さってありがとうございます」

「いえいえ」


 ラクトに答えたソフィアは、エリーを抱いてカズキに続く。その後をラクト達が追った。


「あっ、みんなも来たんだ・・・・・・」

「ニ゛ャー」


 ぞろぞろと連れ立って現れたラクト達を見て、先客が声を掛けてくる。そこには疲れた様子のカリムと、澄ました顔で毛づくろいをしているアレンがいた。


「やっぱり気になりますからね。カリム君はここでアレンと模擬戦を?」

「うん。みんなの試験を見てたら俺も戦いたくなったから!」


 マイネの言葉に、僅かな間で息を整えたカリムが答える。だがその視線は、離れたところで対峙しているカズキとタゴサクに向けられていた。


「さて、そろそろ始めるか」

「【ギガ〇イン】!」


 カズキの言葉で模擬戦は始まった。先手を取ったのは、エストから『どうせ敵わないんだから、最初から全力で行け』と言われたタゴサクである。


「なっ!」


 カズキに向かって放たれた【ギガ〇イン】が消滅したのを見て、タゴサクが動揺する。今までにも防がれた事はあるが、消滅したのは始めての事だったのだ。


「流石は大賢者・・・・・・。どんな魔法で防いだのか、オラには皆目見当もつかねえべ」


 タゴサクにはわからなかったが、カズキは魔法を使っていない。ただ、模擬戦の時によく使っている木の枝に魔力を纏わせ、【ギガ〇イン】を払っただけである。


「だが接近戦はどうだべか? 行くぜ! 【ギガス〇ッシュ】!」


 【ギガ〇イン】を覚えてから数々の戦いで使ってきたお陰なのか、雷を纏った状態での高速移動を完全に物にしたタゴサクは、自分が生涯最高会心の一撃を放とうとしている事に気付く。

  

「マズい!」


 恩人に怪我をさせたくない一心で、慌てて制動を掛けようと足掻くタゴサク。だが、タゴサクがそう考えた時には、既に剣は振るわれた後だった。


「すまねえ!」


 自分がカズキに齎す結果を直視したくなくて、思わず目を瞑ってしまうタゴサク。そんな彼の耳に届いたのは、「何が?」というカズキの声と、カランカランという、地面を転がる乾いた音だった。


「えっ?」


 予想と違う手応えに、咄嗟に目を開くタゴサク。そんな彼の視界に飛び込んできたのは、カズキが無造作に掲げている木の枝と、半分ほどの長さになった、代々継承されてきた自身の愛剣。

 力を失っているとはいえ、初代から今まで一度の刃こぼれさえしなかった剣が、見事に切断されていたのだ。

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