第174話 勇者の特殊能力
タゴサクを新たなメンバーに加えた一行は、気分も新たに目標(Sランク昇格)へ向けてダンジョンに突入した。
「【ギガ〇イン】!」
「【ギガス〇ッシュ】!」
その道中で活躍したのが、不思議な水を飲むと何故か魔力が回復するタゴサクだった。
今の自分が他の五人には及ばない事を知ったタゴサクが、メンバーの目標達成のため、体力、魔力を温存出来るようにと露払いを買って出たのだ。
「タゴサクさん、お怪我を治します!」
「いや、これ位なら大丈夫だべ。フローネさんには魔力を温存して欲しいだよ」
更に不思議な事に、タゴサクは自前での回復手段も持っていた。心配そうに駆け寄るフローネを制して腰の袋から草を取り出し、それをむしゃむしゃと食べると、何故か怪我が治ってしまったのだ。
ラクト、コエンと一緒に迷宮攻略をしていた時、最奥のミノタウロス戦を前に一人だけ元気だったのは、この、謎の水と草を持っていたからだった。
「面白いな。どう見てもそこら辺に生えている草なのに」
「あれも勇者の特殊能力なのかもな。さっき飲んでた水もそうだが、ラクトとコエンには何の効果もなかったみたいだし」
その様子を、ラクト達以外の学院生が全てリタイアして暇になったため、今回の試験の運営者側の人間が見ていた。
言葉を発したのはその中の二人。学院長であるジュリアンと、学院生ながら運営に回ったカズキである。
「私もカリムに聞いた時は半信半疑だったけど、こうして見せられると信じるしかないわね。まさか、薬草でもなんでもない、ただの草で傷が治るとは思わなかったけど」
この世界にも薬は存在していて、薬効成分のある薬草などの採取依頼が、冒険者ギルドにはよく持ち込まれる。
教会に行って高いお布施を払える人間は魔法で治すという手段が取れるが、一般人は普通に薬を使うからだ。
薬の調合は医者や教会が行っているためエルザにも知識はあるが、タゴサクが食べているのはどう見ても雑草だった。
「私も初めて
そう言ったのは冒険者ギルドのギルドマスターだった。
当然だが、タゴサクが入学するに当たって学院の関係者と冒険者ギルドに彼の素性は報告してある。
彼が初代勇者であるタゴサクの正統な後継者である事と、各地でトラブルを起こしている同族のように心臓にマジックアイテムが埋め込まれていない事などをだ。
「『死に戻り』が全員に受け継がれている事から考えると、クズ勇者も同じ事が可能でしょう。とは言っても、初代の意志を受け継いできたタゴサク達とは違って、今のゴミ勇者たちはその事を知らないでしょうが」
「成程、道理ですな。『勇者国家サイトウ』などというバカげた事を考えついた人間が、そんな泥臭い事を子孫に伝える訳がない」
ジュリアンの言葉にギルドマスターが同意する。
「うーん」
「どうしたの?」
二人の会話を余所に、モニター? を眺めていたカズキが唸り声を上げた。
「いや、さっきからあれだけ葉っぱとか謎の水を使ってるけど、明らかに腰に下げている袋に入る容量を超えてると思ってさ」
「言われてみればそうね。さっきから飲んでる謎の水なんて小瓶に入ってるし。もしかしてあの袋、マジックアイテムなのかしら?」
「そうかも。ボタンが付いてないから、この世界産のマジックアイテムではなさそうだね。何故か出し入れも出来るみたいだし」
今回の試験では、『次元ポスト』の使用に制限がかかっている。取り出す事は出来るが、収納するのは出来ないように調整されているのだ。
鉄球を収納して運べるようにしてしまうと、『次元ポスト』の有無で成績が変わってしまうからである。
「じゃあじゃあ、タゴサクの袋を使えば、鉄球入れ放題だったって事?」
カズキとエルザの会話にカリムが声を上げる。
「そういう事だな。まあ次回からは、そこら辺も対策するけど」
カズキがそう言うのには訳があった。今回の試験、内容を決めた四人の悪ノリのせいか難易度が上がってしまい、クリアできたパーティが一つも出ないどころか、中盤まで進めたパーティすらいなかったので、次回も難易度を調整して行われる事が早くも決定していたのだ。
「そうね。そこら辺は今回同様で・・・・・・。鉄球は廃止で良いわよね?」
「ですね。律儀に鉄球を持ったまま魔物と戦って、マジックアイテムを発動させた者も多かった。次回は軽くして・・・・・・」
モニター? の先で行われている挑戦の事を忘れ、次回の試験の事を話し始める一同。
彼らが最後のチャレンジャーの事を思い出したのは、時間切れのブザーが鳴った時だったという。
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