第173話 新メンバー加入
運営からの罠、第二弾に嵌まった六人(結局、タゴサクも巻き込まれた)は、散々飲み食いした後に温泉に入り、風呂上りにまた暴飲暴食をして温泉に入り、いい気分のまま、何故か用意されていたふかふかの布団に潜り込んで、ぐっすりと眠って疲れを取った。いや、取ってしまった(言うまでもないが、ふかふかの布団までが運営の罠である)。
そして翌朝。
「「「「「ごめんなさい!」」」」」
心機一転、試験を頑張ろうと改めて売店へ行き、タイマー型の腕時計を見た瞬間、タゴサクに向かって土下座をする残り五人の姿があった(特にラクト、フローネ、マイネの三人は、クリスの土下座を頻繁に見ていたせいか、無駄に綺麗な姿勢の土下座だった)。
「い、いや、オラも結局、みんなと一緒になって騒いじまっただ。だから、頭を上げて欲しいべ」
「でも、タゴサクさんは最初、必死になって止めてくれようとしていたわけですし・・・・・・」
フローネの言う通り、タゴサクは頑張って他の五人を止めようとした。だが、久しぶりの御馳走を前にした五人の耳には何を言っても届かなかった。
それでもタゴサクは頑張ったが、最終的にはフローネの手により、乱暴にワイバーンの肉を口に突っ込まれて、タゴサクは陥落したのである。
妄想の中でイチャイチャしていた名残で、タゴサクの中ではフローネに『あーん』されたと錯覚してしまったのが最大の敗因だった。
「過ぎた事をいつまでも気にしてても時間は戻らねえだ。それよりも、残された時間で何が出来るかを考えた方が建設的だべ」
「「「「「タゴサク(さん)・・・・・・。わかった(りました)!」」」」」
男前なタゴサクの台詞に、それもそうかと立ち上がる五人。
「それでいいだ。したら、残り三時間で出来る事をオラに教えて欲しいべ」
前向きになった五人の様子に満足気な顔をしたタゴサクが、笑顔でこれから取るべき行動を尋ねる。
学院に入って日が浅い上に、試験会場である洞窟の事を何も知らないからだ。
「じゃあ僕が」
そう言って、試験前に作成した地図を取り出したのはラクトだった。
「正直言って、最短距離を進んでも三時間でゴールするのは難しいと思う。理由は、下調べした時よりもダンジョンが大きくなっているのと、死にそうなダメージを受けたら発動して、ダンジョンの外に転移させるマジックアイテムがある事」
その言葉に異存はないのか、タゴサク以外の四人が頷く。
「ほえー、そんな便利な物があったんだか。まるで勇者の『死に戻り』みたいだべ」
自身が勇者だという事実を隠して、他人事のような発言をするタゴサク。
彼は、自分の正体が五人にばれているとは、想像もしていなかった。
「多分、それを参考にして創ったんだと思うよ。で、問題は、そんなアイテムをわざわざ用意してるって事なんだ。まず間違いなく、それが必要になるような、危険な魔物が配置されていると思う」
「それって、ミノタウロスみたいなのが、この先に出てくるって事だべか?」
ラクトの言葉に、昨日戦ったミノタウロスの事を思い出すタゴサク。彼の戦闘経験の中で、一二を争う強さの魔物がミノタウロスだった(ゴブリンキングとエンペラーは直接戦っていないので除外)ので、それなら何とかなると思っての発言だったが・・・・・・。
「いやぁ、多分だけどそれ以上のがゴロゴロ出てくると思うよ? Bランクの魔物なんて、今までにも散々倒してきてるし」
「そっ、そうなんか・・・・・・」
ラクトの言葉に見事に撃沈した。
「そこで、今回は試験のクリアは諦めて、Aランクの魔物をソロで倒す事に注力した方がいいと思うんだ」
「そうだな。そこまでは六人で協力して進めばいいだろう。別に、他のパーティと協力してはいけないというルールも無いわけだしな」
気落ちしているタゴサクを放置して、ラクトの言葉に同意するコエン。
「そうですね。私も異存ありません。それに、冷静になって考えれば、試験をクリアしなくても単位は充分ですし」
マイネもラクトに同意した。
カズキと行動を共にしているお陰で装備が壊れなくなったので、依頼で得た報酬を全て単位に変えていたからだ。
ラクト、フローネも同様の事をしているので、実はタゴサク以外、試験を受ける必要はなかった。
それでも試験を受けたのは、カズキが運営側に回ったからだ。
冒険者ギルドからの要請により、最近は遠方の依頼ばかりを受けていた――近場の依頼を受けると、ランスリードから冒険者がいなくなってしまう――ので時間が余った。じゃあ試験に参加して、Sランクを目指そう! というのが、そもそもの発端だったわけだ。
「そうだったな。すっかり忘れていたよ。だがそうなると問題は・・・・・・」
そう言って、タゴサクを見るエスト。
「タゴサクさんの単位ですね。私達に付き合わせてしまった上、現在進行形で迷惑を掛けてしまっていますから。タゴサクさん、お嫌でなければ、学生証を見せて頂いても構いませんか?」
「は、はい!」
落ち込んでいたタゴサクがフローネに声を掛けられ、ギクシャクした動きで学生証を手渡す。その際手が触れた事で舞い上がったタゴサクを余所に、五人は学生証を覗き込んだ。
「「「「「5?」」」」」
その結果はまさかの5。トーナメントで取得(本戦出場で1。全ての部門で出場したので3。準優勝で2)した単位のみだった。
理由を聞いてみると、ゴブリンの群れと戦った後、一度も学院で依頼を受けていない(正確に言えば、ゴブリン退治をしたあとに道に迷い、ようやく学院に辿りついた所をラクトとコエンにインターセプトされ、依頼を受ける暇もなかったのだが)という事実が発覚した。
「確認しておくべきだったな。まさか、単位が増えていないとは思いもしなかった」
「外じゃなく学院で依頼を受ければ良かったね。軽い依頼だったから、失念していたよ」
自分達にも責任の一端があると知ったコエンとラクトが、気まずい顔でそんな話をする。知らなかったとはいえ、これでタゴサクには借りが三つ出来てしまったからだ。
「ねえみんな、相談があるんだけど・・・・・・」
そこでラクトはタゴサクに借りを返すべく、ある提案をする。
その提案は借り一つ組の三人にも受けいれられ、満場一致でタゴサクのパーティ加入が決定した。
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