第143話 レーム王国救援

 ザイム王国の隣の国、レーム王国に【テレポート】したカズキ達一行は、ファイアドラゴンの正確な居場所を知る為に、王都の冒険者ギルドへと向かおうとした。休眠中のドラゴンは、カズキでさえも魔力を捉える事が難しいからである。

 だが、【テレポート】してきた途端に目に入った街は、土砂に圧し潰されていたり、火災が発生していたり、その影響で怪我や火傷を負った人々が路上で治療を受けていたりと、なかなかに酷い有様だった。


「・・・・・・爆発した山の残骸が街に降り注いだのか」


 一目で状況を把握したカズキは、街に住んでいる猫を【テレポート】で【次元ハウス+ニャン】に迎え入れるのと、消火と土砂の消滅を同時に行いながら呟いた。

 それとほぼ同時に動いたのが、エルザとフローネである。

 フローネは近くで転がっている重傷者に駆け寄り、エルザが町全体を対象とした【ヒーリング】を使った。


「ギルドに行く必要は無くなったが、ファイアドラゴンはカズキとロイス殿に任せて、我らはエルザとフローネのサポートをしよう。治癒魔法が使えなくても、出来る事はある筈だ」


 火柱が立ち昇るのを横目に、ジュリアンは皆に指示を出した。

 

「「「「はい!」」」」

「「わかった(わ)!」」


 カズキのパーティメンバーとカリムは、【ヒーリング】で回復しきらなかった怪我人のうち、命に別条がなさそうな者達を、フローネや元から町にいた神官の元へと運ぶ役割を担う。

 命に係わりそうな場合は、ソフィアとジュリアンが古代魔法を駆使してエルザの元へ運び込む事になった。

 


 

「ちっ! 固すぎて刃が通らねえ!」

「【ブリザード】! 駄目、全く効いていないわ!」

「無駄に魔法を使うな! 魔力はブレスの対処に残しておけ!」


 火柱が上がっている場所では、レーム王国のギルドに所属している冒険者たちが、ファイアドラゴンのブレスを何とか止めようと悪戦苦闘していた。

 火柱から生じた火の粉が広範囲に拡散して、王都や近くの村や町に降り注いだり、森が延焼したりするのを防ぐためなのだが、ブレスが強力すぎるために効果は微妙。辛うじて火の粉の拡散を防げているという状況だった。

 

「くそっ! おい! 応援はまだか! ブレスを吐く間隔が短くなってる! このままじゃ保たねえ! 魔法使いの魔力も限界だ!」

「この付近の冒険者は既に集結済みです! ですが、他の支部との連絡は付きました! 既に向かっているそうなので、それまでなんとか持ち堪えて下さい!」 

「馬鹿か! ここから他の支部から応援が来るのに何日掛かると思ってやがる!」


 焦燥に駆られた冒険者の怒鳴り声に、非戦闘員であるギルド職員も負けずに怒鳴り返す。気付けば、そこかしこで同様の事が起こっていた。相当追い詰められている証拠である。

 カズキとロイスが現れたのは、丁度そんな時だった。


「アレがファイアドラゴンか。随分とデカい図体をしてるんだな。あんた(ロイス)よりも二回りは大きいぞ」


 ロイスの本来の姿であるドラゴンは、『真・アーネスト号EX』(全長百メートル、幅四十メートル)が小舟にしか見えないような巨体である。それを上回るのだから、爆発四散したのは山そのものではなく、休眠するファイアドラゴンの体の表面に積もった土と、そこに育った樹木だった事が窺えた。


「・・・・・・確たる証拠はないが、あ奴は人間の他に、同族であるドラゴンも捕食していたのだと思う。そうでなければ、同時期に生まれた儂と、ここまで体格に差が出る筈もないからの」

「そっか。じゃあ、アイツがいなくなっても問題はないな?」

「うむ。生かしておけば、『リントヴルム』が封印されているのを良い事に、今の人間と千年前に休眠中だったドラゴンも狙うであろう。あ奴を生かしておくのは、百害あって一利なしじゃ」


 何故か笑みを浮かべたカズキに疑問を抱きながらも、ロイスはキッパリと頷いた。

 そんな二人に、口論に夢中だった冒険者とギルド職員が気付く。


「おい! ここはガキとジジイが来るところじゃねぇ! 興味本位で近づいてきたんならさっさと消えろ! 邪魔だ!」

「遊びじゃないんだ! ここは我々に任せて、早く避難しろ!」


 二人の目には、カズキとロイスが状況を理解していないように見えたのだろう(特にカズキはナンシーとクレアを抱っこしているのだから、当然かもしれない)。二人揃って、避難を促してきた。


「その様子じゃ限界だろう。後は任せて、お前たちは下がっていろ」


 だが、返って来たのはこんな言葉である。当然の様に、二人は激高した。


「「いい加減に――」」


 いがみ合っていたのを忘れたかのようにカズキに掴みかかろうとした二人に、突然冷水がぶちまけられた。納得しない二人に面倒になったカズキが、周りで口論している者たちごと、物理的に頭を冷やそうと魔法を使ったのだ。


「魔法? ・・・・・・お前、魔法使いだったのか」

「ああ。頭は冷えたか?」

「スマン。ドラゴンを前にしてする事じゃなかった」

「申し訳ありません・・・・・・」

「極限状態だったのだから無理もないさ。それよりも、さっき言った通り、あんた達は下がっててくれ。町の復興には、あんた達の力が必要だろうからな」

「Bランクの俺よりも、お前たちの方が強いのはわかる。だが、たった二人では・・・・・・」


 尚も言い募ろうとする男に、カズキは学生証を投げた。


「Dランク? あれだけの力を持つのにランクが低いのは、実戦経験が少ないからか? ならば尚更――」

「違います!」


 しつこく食い下がろうとする冒険者の言葉を、横から学生証を見ていたギルド職員が遮った。


「何が違うというんだ? 見たところ、二人共魔法使いだ。なら盾役は必要だろう?」

「違うんです! 彼は! いえ、このお方は!」

「このお方? どこかの貴族か王族なのか? ならばやはり――」

「『大賢者』さまです! 世界を救った三人の英雄の一人、『大賢者』さまが来て下さったんです!」


 職員の言葉に、成り行きを見守っていた一同の視線がカズキに集まった。 

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