第142話 ファイアドラゴンの目覚め
『ロイス』(アイスドラゴンの名前)が『クロノ』(クロノスドラゴン)の居場所を知らないのは、一千年以上経つ間に、地形が大幅に変わってしまった事が原因だった。
休眠から目覚めたロイスは、真っ先にクロノの封印の状態を確認しようと魔法を使った。だが、世界の裏側まで調べても、彼の記憶と一致する地形は、どこにも見当たらなかったのだという。
『ならばとクロノの魔力を頼りに探そうとしたんじゃが、時間が止まっているせいでそれも叶わなかったのじゃ。・・・・・・空間魔法の使い手であるエリアが目覚めるのを待つしかあるまい』
「エリア? そいつが目覚めれば、師匠の居場所が分かるのか? 何処にいる?」
逸るカズキが矢継ぎ早に問い掛ける。
『わからん。じゃが、儂と同程度のダメージを受けていたので、目覚めるのもそろそろの筈じゃ』
ロイスは答えを持ち合わせていなかったが、否定するだけではカズキの機嫌を損ねると思ったのか、情報を追加した。
「成程。空間魔法なら、自分と対象の位置さえわかっていれば、地形が変わっていても問題ないな」
『その通りじゃ。じゃから、もう少しだけ待ってもらえんかのう?』
下手に出るロイスに対し頷いたカズキが、再び猫たちとの時間に戻る。ロイスはその様子に、ホッと胸を撫でおろした。
エリアの目覚めを待つ事にしたカズキ達は、ロイスを伴ってランスリードの王城に戻る事にした。
「フローネ! テミス村のある辺りから、強大な魔力を感じたのだけど、何があったの!?」
そこには修行から戻ったと思われるソフィアがいて、開口一番そんな問いを発してきた。カズキやエルザではなくフローネに聞いたのは、必要な情報を過不足なく伝える事が上手いからである。
「実は・・・・・・」
問われたフローネが、テミス村に起こった異変から順に話すのを、ソフィアは相槌を打ちながら真剣な顔で聞いた。
「・・・・・・そして、こちらがアイスドラゴンであるロイスさんです」
『ロイスじゃ。アイスドラゴンをやっておる。・・・・・・今回は済まない事をしたのう」
テミス村がソフィアの故郷であると知ったロイスが、カズキが使用した【テレポート】に衝撃を受けながらも――ラウム(←何故かドイツ語)ドラゴンであるエリアにも使えない――、自己紹介ついでに謝罪した。何故か、白髪に長い髭を生やした
永い時を生きたドラゴンは、人の姿に変える能力を身に着ける事が出来るという話だった。
「・・・・・・いえ、不可抗力ですのでお気になさらず」
謝罪されたソフィアは、目の前の強大な魔力を持った存在にビビりつつも――お陰で、ロイスがドラゴンだという話も疑う事はなかった――、辛うじてそう返答する。
その後は、滞っていた政務を片付けたジュリアンも合流し、冒険者ギルドや各国の首脳とも協力して、各地で起こる異変の情報を集める事で話が纏まった。
「火山の噴火?」
その報告がカズキの許へ届けられたのは、ロイスに話を聞いた一週間後。セバスチャン達五人を一方的にボコった後、猫に癒されながら、ティータイムと洒落込んでいた時だった。
「違う。火山ではなく普通の山だ。その山が何の前触れもなく、爆発四散したらしい」
「爆発四散? つまりその山は・・・・・・」
「ああ。跡形もなく吹き飛んだ。残ったのは燃えるような紅い巨体の持ち主で、時折真上に向かって炎の柱が立ち昇らせているそうだ」
『・・・・・・ファイアドラゴンの『フレイ』じゃな。一番深手を負っていたのにもう回復したのか。これはマズい事になったのう』
ジュリアンとカズキの会話に、それまで六人の戦いを見守っていたロイスが加わる(ちなみに、セバスチャン達は虫の息でそれどころではなかった)。
「「マズい? 何が(です)?」」
二人の問いに、ロイスは少し躊躇ってから口を開いた。
『・・・・・・『リントヴルム』に対抗する為に仕方なく共闘したが、あ奴は人間から見れば邪竜と言える存在でのう。『人間なんぞ俺のエサだ!』と言って憚らず、幾つもの村や町を壊滅させるような奴なんじゃ』
「成程、人類の天敵という訳か・・・・・・。そんな奴が野放しになっていたのは、ドラゴンの中で一番強かったからですね?」
『その通りじゃ。じゃが、『リントヴルム』程強くもなかった。それ故封印に協力したのじゃ。まあ、奴の思惑――『リントヴルム』を封印した後、他のドラゴンを倒し、人間牧場を作る――はわかっておったので、『リントヴルム』の正面になるように配置したんじゃがの』
「それが目覚めそうになっているという訳か。休眠中のドラゴンの魔力を捉えるのは難しいから、場所がわかっているというのは有難いな。それで? そいつは何処で寝てるんだ?」
膝で寝ていたナンシーを優しく抱いて立ち上がったカズキが、ジュリアンにドラゴンの居場所を確認する。
「ザイム王国の隣の国『レーム』。その王都のすぐ傍だそうだ」
『・・・・・・もしかして戦うつもりか?』
「ああ。そんな迷惑な奴を、野放しにする訳にはいかないだろ?」
『そうか・・・・・・。苦労を掛ける』
「気にすんなって。色々と確認しておきたい事もあるからな」
カズキはそう言って、不敵な笑みを浮かべた。
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