第136話 アンデッド騎士団

 ナンシーを抱いたカズキが魔法を使うと、地面から音もたてずに防壁が出現した。

 リハール(ゴブリンに襲われていた村。今は規模が拡大したので町)同様、村の外に広がる農地を内包する形で出現した防壁に、村人たちから歓声が上がる。


「あんな巨大な防壁を、一瞬で造り上げてしまうとは・・・・・・!」

「これなら、魔物や獣に怯える事無く、安全に農作業が出来るぞ!」

「流石は大賢者様! 聖女様のように、我々の今後を気にかけて下さったのですね!?」


 口々にそう言いながら、元・村はずれに出来たばかりの建物に、動物と一緒に入っていく村人たち。

 デュラハンは再訪する一年後にも扉をノックするため、村人が迂闊に開けないように、入り口は一か所になっている。

 カズキ達三人はその扉の前に陣取り、デュラハンを迎え撃つ手筈になっていた。

 



「んっ。・・・・・・そろそろ時間ね」


 村人の目がなくなった為、カズキが用意したソファベッドでだらしなく寝こけていたエルザ。彼女が伸びをしながらそう言って起き上がったのは、夕日が沈み、辺りが暗くなり始めた頃だった。


「おはよう、ねーさん。疲れは取れた?」

「おかげさまでね。ナンシーが気に入るだけあって、とっても寝心地が良かったわ」


 そう言って、一緒に寝ていたナンシーを撫でるエルザ。


「ニャア。・・・・・・フシャー!」


 撫でられたナンシーは一声鳴いて、再び寝息を立て始める・・・・・・かと思いきや、毛を逆立て、虚空を睨んで唸りだした。

 

「どうやら来たみたいね」


 同時に気付いたエルザも、鼻を摘まんでナンシーと同じ場所に視線を向けている。

 

「コシュタ・バワー(首の無い馬)が五十六匹、デュラハンが二十六匹。よく分からないのが一匹だ。デュラハンは二頭立てのチャリオットに乗ってて、よく分からないのが四頭立てのチャリオットに乗ってるな」


 最も早く気付いたカズキは、抱き上げたナンシーをゆっくりと撫でながら、把握した敵戦力について報告した。


「Bランクのデュラハンが二十六体と、それよりもランクが高いであろう魔物が一体か。それがCランクのコシュタ・バワーが牽くチャリオットに乗っているとなると・・・・・・、控えめに言っても、ザイム王国の軍では太刀打ちできない戦力だな」


 一人だけ気配を感じ取れていないコエンは、三人が視線を向けている方向を不思議そうに見ながら、ザイム王国の戦力をさりげなく暴露した。


「ザイム王国軍、弱っ!」

「ランスリードが異常なんだ! 上層部が常軌を逸した戦闘力を持っている上に、騎士は全員オリハルコン装備! そんな国に勝てる訳がないだろう!?」


 カズキの素直な感想に、反射的に叫び返すコエン。これでもコエンはザイム王国の王族(継承権は百五十位とかなり低いが)なので、祖国の軍を悪く言われるのは我慢できなかったらしい。


「悪かったから、そんなに興奮するなって。それよりも、そろそろ詠唱を始めたほうがいいんじゃないか?」

「む? ・・・・・・仕方ない。この話は後だ」


 そう言って、魔法の詠唱を始めるコエン。カズキとエルザがいる以上、コエンが戦う必要はないのだが、祖国で起きたトラブルなので、自分も少しは何かしたいと思ったのだ。

 

「【レーヴァテイン】! ちっ、どういう事だ!」


 詠唱が終わったタイミングで現れたデュラハンの群れに向かって、【レーヴァテイン】を放ったコエンが舌打ちした。

 

「威力は充分だったと思うんだけど・・・・・・。どういう事?」


 エルザも不思議そうに首を傾げている。それもその筈。コエン渾身の【レーヴァテイン】が直撃したにも関わらず、最も弱いコシュタ・パワーすら倒せていないのだから。


「・・・・・・あいつらの装備はオリハルコン製みたいだな。デュラハンの鎧は言うに及ばず、コシュタ・パワーの馬具も、チャリオットもそうだ。一番後ろにいるフルプレートの奴に至っては、総アダマンタイト製だし」

「そうなの? なら、コエンの魔法が効かないのも当然の話ね。それにしても、なんでアンデッドが魔法金属なんて装備しているのかしら?」

「さあ?」


 姉弟が呑気に会話をしているのを余所に、コエンは一人考え込んでいた。


「まさか・・・・・・、いやそう考えれば辻褄は合う」


 暫くすると考えが纏まったのか、コエンは顔を上げる。


「二人共、気をつけろ! アイツらはっ! ・・・・・・はい?」


 そして、何かを言いかけて途中で固まった。


「ん? どうした、コエン?」

「もうすぐ終わるわよ?」


 固まったコエンの目の前で、最後まで残っていたフルプレートのアンデッド(アンデッドナイトという、鎧だけの魔物)が、炎に吞み込まれ消滅する。

 カズキが使う古代魔法は詠唱が不要だし、エルザが手にしているマジックアイテムもボタンを押すだけなので、コエンが考え込んでいる間に、全ては終わりを迎えていたらしい。


「・・・・・・いや、何でもない」


 終わった事に興味はないだろうと、言いかけた言葉を飲み込むコエン。

 それは、ザイム王国に古くから伝わる、アンデッド騎士団の話だった。

 古代魔法王国時代、アンデッドを研究していた者達によって殺された人々の怨念が形となり、近くにあったアダマンタイト製の武具に憑依。アンデッドナイトとなって研究者に復讐した後、野良のデュラハンやコシュタ・パワーを配下にして、魔法使いを虐殺して回ったという事があった。

 魔法金属製の武具のお陰で、古代人が得意とする魔法を受け付けない彼らを、総力を結集して封印したのが、このザイム王国のある土地という話である。

 ザイム王国では、主に子供の躾の時に使われる話だったのだが・・・・・・。


「子供のころから聞かされてきた話が、まさか事実だったとはな」


 高熱によって発生した風に吹かれながら、コエンは独り言ちた。

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